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   トオルはなかなか厳格な家庭で育ったようだ。進学も地元でと言うのが親御さんの意向だったけど、トオルは土下座して頼み込み、大学生活四年間だけの自由を手にしていた。  色々緩いと言わざるを得ない市大(うち)の商業デザイン科ではなく本当は美大や芸大を目指したかったんだろうに、『自力でどうにか出来る才能も根性もなかった』と学生時代と同じように自嘲気味に笑うトオルがやっぱり切なかった。  十代の頃の僕はと言えば親に対して不満なんてなく、反抗する理由もないまま宗くんの子守りを生き甲斐に思春期を終えた。そのせいか親への『怖さ』ゆえに反抗も出来ない家族関係と言うのは正直想像がつきにくい。  トオルを含め周囲から散々言われて来たように、紛う事なき『苦労知らずのお坊っちゃん』なんだろう。 「海外ではそれなりに苦労したんだよ?これでも」 「ふーん………」 「超貧乏。今回も飛行機代親頼みで帰って来たし」 「ふーん………」 「でも、お金は無くても楽しいのは確かだったから……やっぱり恵まれてるんだろうねー」 「うん………」 「イラつく?」  トオルはぱっと目線を上げるとふるふると首を横に振り、まるで赤ん坊みたいに鎖骨の下あたりにちゅーちゅー吸い着いてきた。可愛い……ああ可愛い♡やっぱり先ずは碓氷村、そしてバルセロナにお持ち帰りしたい……! 「お、俺なんか全然可愛ない……死んだ両親も元嫁もトカゲみたいやって」 「僕はトカゲも大好き♡トオルがくれたペンダントトップもまだ持ってるよー」 「あれ、持っとるん……?」  僕はクローゼットの古いスーツケースから、ポケットに仕舞っていた缶ケースを取り出した。昔、ガウディ作品の中でモザイクタイル製の蜥蜴が一番好きだと言った僕にトオルがくれた最初の手作りプレゼント。今も緩衝材に包まれ行儀よく収まっている。  捨てる事が出来ずにここに置いて行ったけど、忘れた事はなかった。 「尻尾が折れてボンドでくっつけた」 「ホンマやなー……ヒビ割れとる」 「でもくっついたよ。ずっとずっと大事にするよ」  小さな蜥蜴を持つ手の甲にキスすると、トオルはまた僕の胸に顔を埋めて隠れてしまった。僕はトオルの髪の匂いをスンスン嗅いで、やっぱり物凄く落ち着いた。  トオル。  この先またどんなに酷いひびが入ったとしても─────僕は何度だってくっつける。手当てする。約束するから安心して。
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