ジャイ〇ンには逆らえまい

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 「桐生(きりゅう)疾風(はやて)です、東京から転校してきました、よろしくお願いします」  2年1組のその日の朝は男子も女子も全員雷に打たれたくらいの衝撃を受けた。  切れ長で二重の瞳、薄い唇とサラサラとした髪の毛、細面の顔立ちのその人は目を細めてニッコリと笑った。  完璧な名前、以前住んでた場所、そしてその端正な容姿に女子は皆一瞬で目を奪われる。  これほどの田舎の山奥にTVの向こう側でしか見たこともない、ハイスペックが現れたのだ、そりゃ舞い上がる。  私も「烈風」や「ko-tton」みたいなジュニ系アイドルみたいだなぁって見惚れた、最初はね!!  ただ勝手に抱いた彼への印象。  『優しそうで柔らかな笑顔、きっと優しい人に違いない』  今じゃそんなバカげたものはトイレットペーパーに包んで水に流してしまった、とっくにね。  「ぶうちゃん、ごめんねえ! ゴミ捨てておいて、よろしく!!」  いーよ、わかった! と安請け合いして見送ったのはウチのクラスのイケてる女子軍だ。  田舎だろうが都会だろうが女子にはランクというものが存在し、私は下位のランクに属するようだ。  イジめられてるわけじゃないよ、ただ存在を軽んじられてるだけ。  足が遅くて顔も普通、成績も普通、となると、どうでもいいランクという下位に見下されるのだ、慣れたつもりではいる。  でも掃除当番は平等であれよ、と思う。  ぶうちゃんって何だよ、風香だよ、ふうちゃんだよ!  心の中は鬱憤が溜まってるから時々発散するわけ、月に1回、ぐらい? 誰にも見られないように。  「ぶうちゃんって呼ぶなっ!!!! たまには掃除しろ!!!」  拳を丸めてイケてる女子軍のリーダー牧野さんの体操服入れをグーパンチした、時々だよ、時々。  誰にも知られちゃいけない、私の陰険な発散方法。  一発だけ殴ったらスッキリするんだ、けど…。  …アレ?  何これ、気のせいじゃない、よね?  笑い声…?  見渡した先にいたのは。  「…ぶうちゃん」  入り口でクックックと笑っているのは桐生くんだった。
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