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「俺待ってるから…。」
都合の良い言葉だと思った。
相手からしたら何時まででも待っていてくれるんだと無期限な猶予を与えられたも同然だ。
自分で言っておいて今は後悔している。
大学で勉強していてもノートをとっていたはずの手がいつの間にか止まっていて結局友達のノートを借りて書き写す始末。
最近では吞み会にも参加する気分になれず断ってばかりいた。
一人に執着する事なんて無かったはずなのにこんな風になってしまった自分が笑えて仕方がない。
高校の時。
俺は割とモテる方だったから、可愛いな…とか普通に皆がそう思う様な女の子と付き合っていた。
勿論、優しくするし楽しませたりと俺なりに精一杯尽くす。
けれど「別れたい。」と言って来たら引き留めたりとかはしなかった。
そんな風に言ってくる子は向こうから告白してきたのに勝手だなとは思っていたけれどそれだけ。
そう…だから俺はあっさりしていて執着とは無縁な恋愛をして来た。
彼女を好きになる迄は…。
新谷は周りの女子とは少し違って中身が人間がしっかりしていて俺には眩しく映った。
だからこんな俺が付き合ってくれ…なんて軽々しく言えなかった。
「うわ。空真っ暗…。」
改札を抜けて母さんの家に向かおうとしていた俺はそのどんよりと暗い空に呟いた。
辺りを見回すと何人かの人達が一斉に傘を広げていくのが目に入って来た。
何時だったか新谷を抱きしめたあの場所も。
そしてアイツと目が合ったあの日。
新谷への執着があるのはアイツのせいでもあるのかもしれない。
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