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「毎日同じ空間に居て嫌でも顔を合わせなければならないと思っていたのに妹が家を出た途端になんだかスッと軽く…不思議な位に心が穏やかになっていって…。」
「うん…。」
「…で、その時ふと思ったんです。」
息をするのも躊躇うほどにその口元に集中する。
「自分は本当にピアニストになりたかったのか?ピアノを好きだったのかって。本当は外で友達と沢山遊んだり周りが見えない位に恋に夢中になったり…普通の女の子が歩む人生の方が私には向いていると気が付いたんですよね。妹をあんな風に思ってしまったのは妹の才能に嫉妬してそして何時も側にいる存在だからしなくて良いのに比較対象にもしてしまっていたんです。狭い世界で周りが見えなくなっていましたから。今思えば醜い執着心でした。」
俺は彼女の話にのめり込んで行く。
「本当何をやっていたんだか私は。だから自分は自分であって妹と比べるのがそもそもおかしい訳で。自分の人生好きな様に生きれば良いという事で納得がいきました。」
ニコリと俺に笑って見せた。
「妹が家を出たのもきっと私の豹変していく様子を見るに見かねての事だったのかなと。十分過ぎる位優しい妹なんですよ。私には勿体ないです本当に。あ、でも私。ピアノは嫌いでは無かったと思います。今は…触ってませんけどね。あと妹とも仲良くしています。ふふ。」
そうだ。
そういう事だったんだきっと。
高校の頃、俺の一歩先には何時もアイツが居た。
勉強にスポーツ…そしてツンとしているのに女子にもてていた。
そして知らず知らずの間に俺は何でも完璧なアイツへ嫉妬心を抱いていた。
何時か俺がお前を見返してやる…なんてアイツに執着していったんだ。
椿秀也という男。
アイツへの執着心がいつの間にか新谷に対する執着心を上回っていたんだと。
新谷を好きだという大切な気持ちがあったにも関わらず俺はそれをおろそかにしていた…。
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