女王の後宮

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女王の後宮

ここ星翔(せいしょう)は、アルトゥール大陸の中で最も強大な国でありながら、歴代一人の女王で治められている稀有な国であった。 「陛下、そろそろ「(しつ)」を増やしてくださいませ。」  内殿の執務室で膨大な量の書類に目を通していたこの国の女王である紗々羅(ささら)は、ふっと息を一つ吐くと、金のたおやかな髪をさらりと揺らしながら、顔を上げて、女王補佐官である久遠(くおん)の顔を紺碧の瞳で睨んだ。 「また、その話か。この書類の山を見てみなさい。男を選らんでいる暇などわたくしにあるとでも?それでなくとも、母上が急遽隠居されることになり、内政がまだ落ち着いてないではないか。」 「陛下、男選びなどと・・・。」 「それに室なら一人いるではないか。」 「それはまだ精通も始まってはいない、10歳の子供ではありませんか。」 「お、お前はなにを・・・。」  紗々羅は、ある程度の性の知識を教わっているものの、18歳で政権を引き継ぎ後宮を持ってまだ半年、男の手を知らない少女であったため、久遠の言葉に真っ赤になってしまっていた。 「久遠…だったらお前が室になれば良いではないか?」 「陛下、冗談が過ぎますよ。」 役職に就いた男は陛下の室になれないのだ。その昔、重要な役職だった男が後宮に入ってしまったため、政治が乱れ、他国に脅かされることがあったため、以来、固く禁じている。 「明日の室候補の閲覧会には、必ずご出席ください。就任されて以来、一度もお召しにならず、大臣からは、毎日のように催促の手紙と訪問がひっきりなしにやってきます。」 「全く、品評会みたいな物言いは何とかならないのか。」 「そのような意味では・・・。」 「ふん、そのような意味であろう。で、わたくしがそこに行って誰を選んでも差し支えないのか?」 「はい、ぬかりありません。」 「分かった。明日の準備があるから、今日はもう後宮に戻る。そこの書類はお前が処理しておけ。重要なものには目を通したから、お前でも問題なかろう。」 「承知いたしました。」 久遠も女王が明日、閲覧会に行くというのであれば、山のような書類を処理することに異論はなかった。 「いくぞ。」 紗々羅が声をかけたのは、ひっそりと控えていた侍女のアヤメであった。 アヤメは頷き、女王の後を歩く。 後宮に入れる女は女王と女王が認めた侍女2人までである。 これまた昔、侍女と室との不義により、後宮に入れる女性の数が制限されたのであった。
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