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瞬は座っている紗々羅の方に少し手をかけて、触れるか触れないかの接吻をしたかと思うと、瞬はあまりのかぐわしさに、何度もしてしまったのである。
「陛下…。」
瞬は、勢い余ってしすぎてしまったと気づき、慌てて紗々羅の足元に跪いて、言葉を待った。
「明日、また来る。」
跪いた瞬の頭をそっと撫でてから紗々羅は、足早に瞬の居室を後にした。
紗々羅は、思いがけない接吻に胸がドキドキとして止まらなかった。
『あの子供が…。』
紗々羅は、胸を押さえながら瞬を思った。
瞬は非常に整った顔立ちをしており、10歳にしては、足も長く肩幅もそこそこある。あと、7,8年すれば精悍な青年となるだろう。
黒豹のごとく艶々した髪と、瞳は、この国では珍しい色だ。
それを標本のごとくにしようとした大臣の手から瞬が5歳の時に救ったのだ。
その頃はまだ母の政権で、敗戦国からの貢ものの中に瞬は入っていた。
敗戦金を十分に支払えない代わりだという。
大臣の一人は瞬とお金を代えて自分のものにしようとしたらしいが、こっそり戦利品を見にいった紗々羅に見つかってしまったのだった。
当時13歳だった紗々羅だが、次期女王としての教育の賜物で、この大臣が残酷かつ残忍なのは知っていた。
瞬がこの大臣の元に渡ればどうなってしまうのか…。
紗々羅は、必死に母の元に行き、黒髪の珍しい男の子がいるから後宮に入れて欲しいと言ったのだ。自分の手元に置かなければ、いつまた大臣の毒牙にかかるか分からない。
だから紗々羅は、懇願した。
母は、「わらわの室にするには幼すぎるが、お前が後宮を持つころには立派な室になろう、わらわがそれまで育ててあげましょう。」と言ってくれたのだ。
これには母の大いなる考えがあったのだが、それを知る由もなく、紗々羅は少年を救えたことに満足していたのだった。
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