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初閲覧会
閲覧会当日。
「陛下、そろそろお支度をしませんと…。」
もう一人の侍女ハルカが湯殿でのんびりとしている女王に声をかけた。
「ハルカー今日、休む。」
紗々羅は18歳らしい物言いで少し年上のハルカに訴える。
「陛下、久遠様とお約束されたんでしょ?それにすごい美丈夫が揃ってると聞きますよ。目の保養にでも行くつもりでどうです?」
「ハルカが見たいだけでは?」
「ま、そうかもですわね。でも、陛下の隣では私は、野ネズミのようにしか皆さまには映りませんから安心してください。」
「ハルカ!そんな言い方しないって約束したでしょ!あなたは、私の大切な姉でもあり、友達でもあるのよ。」
「陛下…。ありがたき言葉…。冗談でもいけませんでしたわね。」
ハルカは、生まれつき顔の半分に大きな痣があり、7大大臣のうちの一つ龍鳳__りゅうほう__家の娘でありながら、2歳で修道院へ入れられてしまったという。
それを聞きつけた母が将来の娘の侍女にとハルカが4歳の時に紗々羅の遊び相手として宮殿に連れて来たのだった。
「まっ、ハルカの目の保養のためにも出席しよう。」
湯殿から出た紗々羅に素早く駆け寄ったアヤメは体を丁寧に拭く。女性にしては、背が高いため、女王の身なりを整えるのは、主にアヤメの役目だった。
「アヤメ、今日は濃紺のドレスにして。」
紗々羅が言うと、アヤメは深く頷いた。
彼女は、耳は聞こえるがどういう訳か声が出せないのである。
「陛下、今日はもっと煌びやかなドレスの方がいいのでは?」
ハルカが装飾を選び取っている手を止めて声をかけた。
その声にアヤメはじっと瞳をハルカに向けた。
「はいはい、アヤメの気持ちは分かったわ。どんなドレスを着ようとも陛下の美しさは隠せませんもの。陛下のおっしゃるとおりにいたします。」
すると、扉を叩く音がした。
応対したハルカが戻ってくる。
「陛下、久遠様から新しいドレスが届いております。」
その声に紗々羅は、顔を顰めた。
見てみると実にシンプルな作りの白のドレスであった。
「久遠のことだから、もっと派手な物を選ぶかと思ったが…。これなら着てみても良いな。」
だが、アヤメが着せてみるとなんとも妖艶なドレスだったことが分かる。
体の形がはっきり分かるのだ。
豊満な胸は強調され、腰のくびれは普段よりはっきり分かる。薄いオーガンジーの生地で隠されているもののその形は透けてはっきり分かるのだ。
「なんだこれは。こんなもの着て出れるか。」
その時また扉を叩く音がしたので、ハルカが応対し、叩扉の主が現れた。
「陛下、贈り物を気に入っていただいて良かったです。」
「久遠…。」
紗々羅はじろりと睨む。
「今から脱ぐところだ。」
「なりませぬ。閲覧会では、陛下に心からお仕えしたいと室候補に思わせねばなりません。それをお召しください。」
「この下品なドレスを見てそのようなことを思うなど男とは馬鹿だな。」
「そうです。男は馬鹿なのです。ですから女王がこの国を統べているのです。」
久遠は、ああいえば、こういうで、とり成す隙がない。
「それに、陛下。無位の室候補が陛下のお姿をじっと見ることはないでしょう。無礼に当たりますから。」
結局は、久遠の思うままになってしまうのであった。
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