殺し屋

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 あっけなく勝負がついた。  老人は血まみれになって、床に倒れた。弾の切れたリボルバー(回転式拳銃)が、老人の手を離れ、かたわらに転がっている。  ここは丘の中腹に建つ、老人の山荘だ。近くに人家はなく、銃声を聞きつけてやってくる人間もいない。  若い男は用心をおこたらず、拳銃――コルト・ガバメントをかまえたまま老人に近づき、つま先でリボルバーを蹴とばした。老人の銃は、S&W (スミス・アンド・ウェッソン)・M10だった。 「まったく、たわいないものだな、ホークともあろう者が」  老人を見下ろす若い男の顔に、あざけりの笑いが浮かんでいる。  無理もない。禁酒法が施行される前から、合衆国の裏の世界でナンバーワンと称されてきた殺し屋、ホークを、自分の手で倒したのだから。 「……若いの」  老人はかすれた息の下、力をふりしぼって若い男に呼びかけた。 「なんだ? 命乞いか?」 「頼みがある。このロケットを」  と、老人は首にさげたロケットペンダントを、血にぬれた手でつかんだ。 「このロケットを、娘に届けてほしい。もう何年も会っていない娘だ……」
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