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12 中村 達樹
懐かしい場所へ移動になった。出向を言い渡されたが、向こうの営業所の人手不足を聞き、転勤を申し出ている。こちらへ来る前にそれは人事部へと向かったようなので、あと、数日のうちに正式に転勤が言い渡されると思う。
両親は達樹が遠くへ行くことを寂しがっては居たが、この町へ行くことには賛成してくれた。達樹のいままでの人生の中で一番有意義で、達樹らしく暮らせた場所だと両親が一番理解しているからだ。
東京にいるとどうしても競争ばかりで、達樹の顔に笑顔は少なく。愛想笑いをする子供だった。中学2年生の時、引っ越したこの町で、達樹の顔から明らかに楽しい笑顔が生まれたのだ。
親友と呼べる安田 晃平と知り合い、生き生きとする達樹を見て、本当ならばここに腰を下ろそうと思っていたようだが、いかんせん、達樹の父親は大手会社の重要ポストについてしまい東京に帰らざるを得なかった。
達樹は、就職などの利点から東京への引っ越しを承諾したが、本当は残りたかったのだろう両親は思っている。
だから、達樹が出向ではなく、転勤を選んでも寂しがりはしたが反対はしなかった。
達樹は楽しんで荷造りをしていた。
大学卒業し、社会へ出て彼女もできた。あと少しで結婚という話が出た人もいたが、あと一つが踏み出せず、結局独り者のままだ。
あの町へ帰れると思うだけでこれほどまでに気持ちが躍るのか? と思うが、あの町へ帰ることも、晃平に会えることもそれ以上に、妙子に会えることが楽しみで仕方なかった。
晃平とは時々連絡をしあっている。晃平はまだ一人ものらしい。
「私? 私結婚したよ。覚えてない? 中学の時の同級生よ」
ひっ詰めただけの髪、化粧っ気のない顔。丸く少し幼く見えるのに、しっかりした気質をその目に感じる。
中学生らしくない落ち着きで、大人びているかと思えば、笑った顔はかわいらしく、少し困った様な顔は本当に守ってあげたくなるような顔をする人。
「結婚、したの?」
聞き返す達樹に、妙子は微笑んで消えていく。
慌てて起きて、あと一週間先だった引っ越しを決行し、引継ぎなどの時間に当て、そして、妙子に会いに来た。
―妙子は、結婚してなかった。
大人になっていたけれどあの頃のままで、少し意地悪をして困らせてみたくなるように目をそらす。意識しているのは解る。あの頃と同じだ。
どうやって、君と付き合おうか―。
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