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同志
面と向かうと、老人は思ったよりも背が高かった。和也よりも頭ひとつ高い。百九十センチ近くありそうだ。
ジーパンにダンガリーシャツを羽織ったラフな格好だが、手足が長くスタイルが良かった。白髪をポニーテールの様に後ろで束ねている。顔や目尻のしわは多いが、背筋は伸びて颯爽としている。
和也は老人を誰なのか思い出せなかったが、老人が左手に持つ黒い杖で思い出した。和也は恐る恐る尋ねた。
「あなたはバス停に座っていた方ですね。」
老人は頷くと、言った。
「病院へお急ぎの様子でしたが、間に合いましたか?」
和也と雅美は思わず顔を見合わせた。老人は二人の雰囲気から察した様子で、和也の返答を待たずに言った。
「それは残念でした。」
老人は雅美に丁寧に頭を下げると、言った。
「少しお兄さんとお話をさせてもらっていいですか。」
雅美が怪訝そうに頷くと、老人は和也をバス停から少し離れた植え込みの近くに誘導した。
老人は振り返ると、和也に小声で言った。
「貴方は初めてあの能力を使ったのですか?」
『あの能力』とは、周囲の人間がリバースした事を指すのだろうと和也は思った。和也が黙って頷くと、老人は言った。
「困った事が起きたら、俺に連絡してください。」
老人はそう言うと、白い紙切れを差し出した。携帯電話番号とその下に『奥田剣一郎』と書いてあった。
和也は困った事が起きる前提にムッとしながら、素朴な疑問を老人にぶつけた。
「奥田さんは何でリバースしなかったんですか?」
奥田と名乗る男は綺麗な白い歯を見せると、照れ臭そうに笑いながら言った。
「俺もあなたと同じ能力者なんですよ。」
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