225人が本棚に入れています
本棚に追加
1■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:希(了)
聳え立つように高い真っ黒な格子の柵。先には槍みたいに尖った飾りが付いている。
それが、右を見ても左を見ても、ずううっと続いている。僕と双子の弟のアユは、突っ立ったまま口をあんぐりと開けて見ていた。
「すご……」
「うん、すごいね」
バスで山道を揺られること数十分。
『白樫学園前』で下車したものの、歩けど歩けどただ黒い柵が続くだけで、いっこうに入り口が見えない。
東京の都会っ子で田舎もないはずの僕らがどうしてこんな山の中に立たされているのかっていうと。それには、複雑なようでいて、実は単純明快な理由があって。
ちょうど去年の秋ごろだった。中3の僕らは受験生で、願書の提出期限も迫っていた頃で。
とはいっても、僕は志望する公立の高校に楽々入れるって言われていたし、アユは成績の範囲内で行ける高校はひとつしかないって言われていたし。
だから、進路に思い悩んでいた訳でもない。
両親が突然、思いつめた顔で僕らふたりを呼んだ。
「あのね、実はすごく大切な話があるの」
いつも明るい母さんが、声を落としてそう言った。
なんだか、僕はすごく嫌な予感がして、両親の顔を見比べた。ふたりとも、いつもと変わらず仲がいいように見える。
でも、もしかしたら僕らに気付かれないようにしていただけで、本当は、仲良くなかったとか?
「ふたりとも、どうしてもどうしても行きたい高校、ある?」
「「え?」」
でも、母さんが言ったのは、僕が予想したのとはまるで違ったことだった。
意味が分からなくて、声をあげると、隣からも同じ声があがった。
「どう?」
でも、母さんは真剣な顔でくり返した。父さんは、なにもいわずに母さんの隣に座っているだけ。
僕は、考えてみた。
どうしても? なのかな……
ただ、この校区では一番いい学校だって、聞くから……でも、僕が、絶対に行きたいのかっていうと、そう、じゃないかもしれない。
気がつくと、僕も、アユと同じように、ふるふると顔を横に振っていた。母さんも父さんも、僕らを見て微笑んでいた。
「じゃ、話は決まりね。もう、ふたりの学校は決まってるから」
それは、柔らかな口調ではあったけど、母さんが笑顔で下した命令だった。
そして、僕らには見えないくらいにスピーディーに話が進んでって、いつも家に来てるおじさんが理事長をしているっていう白樫学園に入学することが決まった。
それと同時に、両親は世界一周号貨客船の旅に出発した。
簡潔に言うと。
僕ら山田家は、昔っから小さなマンション住まいで、特に貧乏じゃなかったけど、まあ、普通の一般家庭だった。父さんはサラリーマンで、母さんはフラワーアレンジメントの教室を開いている。
ごくごく普通だって思ってたんだけども。
実はそうじゃなかったらしくて。
うちには、おじいちゃんの代からのすんごい資産があるらしい。よく遊びに来る叔父さんは、学校の経営なんてしてるし、父さんにも、同じような学校を建てられるくらいのお金があるらしい……。
僕は、それを聞いても夢の中の話みたいで、なんにも言えなかった。
でもアユは、小学校の時にファミコンをなかなか買ってもらえなかったとか、PSPが欲しいってこの前言ったのに、とか、とにかくいろいろ言ってた。
「なに言ってるんだ、そんなもの全部買い与えてたら、ろくな大人にならないだろ」
それまで黙っていた父さんが言った。
「そうよ。あたしも賛成したもの。それにうち、どこの家よりも幸せじゃない? こんなに仲のいい家族、いる? わかる? これがあたしたちが望んだ家庭だったの。お金じゃない」
僕は、母さんが言った意味を、何度も何度も考えていた。
アユもさすがに黙った。
「それにね、やっぱりあなたたちには、一緒にいてもらいたいの。だから、ふたりで一緒に通える高校が、よくない?」
「「いい! そこがいい!」」
気がつくと、僕らは声を合わせて元気よく返事をしていた。
あれから数カ月経った僕らは、もうちょっとやそっとのショックじゃ凹んだりしないぞ、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!