2■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:歩(了)

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2■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:歩(了)

 山田歩 参上!  …チュン、チュン…  周りを見渡すと、視界に飛び込んでくるのは何とも目に優しい、緑。  そして目の前には真っ黒で仰々しい、柵が聳え立つ。  オレ、山田歩(あゆむ)と、双子の兄、希(のぞみ)は目の前にどっしり構える柵を前にして、ぽかーんと口を開けていた。 「すご……」 「うん、すごいね」  だいたい、なんで『学園前』ってとこで降りたのに、一向にその学園が見えてこないわけ?  延々と続く柵に沿って歩き、入り口がどこだろうと歩いていると、なんだか自分がRPGの世界にでもいるような気がした。  ありえない…。  オレ達は都会育ちで、こんな田舎には縁がないはずだ。  だけど、なんでそのオレらがこんなとこにいるかというと…  中3で受験生のオレらに、母の命令とも言える提案が下されたのだ。  オレはバスケができたらいいなーなんて思ってたわけで、地元の高校に行くつもりだった。  中学時代部活や遊びで忙しく、勉強がおろそかだったので、学区内トップの高校を受けるだろうノンとは当然同じ高校に行く予定もなかった。  父さんと母さんは突然あらたまってオレら二人を呼んで、 「あのね、実はすごく大切な話があるの」  なんて母さんが真剣に言った時は何があったのかと思った。 「ふたりとも、どうしてもどうしても行きたい高校、ある?」 「「え?」」  思いもよらない質問に、オレとノンが同時に聞き返した。 「どう?」  どうっつわれても、オレはどこ行ったってうまくやってく自信はあった。  バスケやって、友達作ってバイトとかやって遊べればいいや、なんて軽い考えしかなかったから、別にどこだっていいと思って首を横に振った。 「じゃ、話は決まりね。もう、ふたりの学校は決まってるから」  はい?決まってませんよ。  反論しようにも昔から母さんの笑顔には、絶対的な権力を持つ力があったし、最初からそんな気もなかったけど。  そんで知らない間に話がきまったらしく、オレ達兄弟はここにいる。  いつも家に来てるおじさんが理事長をしているっていう白樺学園に入学することが決まった。  父さんと母さんは世界一周旅行に旅立った。  そんな両親に一言言いたい。  うちってそんな金あったんかよ!!!  やっと辿り着いたアールヌーボー様式の装飾がついた、これまた偉そうにどっしりと構えた門を入ると、ようやく見えるかと思った学園はまだ姿をあらわさなかった。  どんだけ田舎だよ、ここは。  牛とか飼ってんじゃねーの…、とか思ったけど、一瞬でその思いはかき消された。  たしかに自然は豊かだけど、その整備の仕方が違う。  え、英国庭園!?  そのだだっぴろい敷地を見回していると、ひらひらと舞うひとつの点が目に入った。  視力2.0、数メートル離れてるけどその標的にロックオン。 「ミカドアゲハ!」  あれはもしかして、絶滅危惧種のミカドアゲハ!?  まさかこんなとこにいるわけ…でもここってまるで異国の地じゃん、ありえないこともないよな? 「ノン、オレちょっとあっち行ってくる待ってて!」  ノンにそう言った時、俺はまさかノンも別のものに気をとられて別の方向に向かっていたなんて知る由もなかった。  さすが双児。  とにかくオレはそのミカドアゲハらしき蝶を追い掛けて、いつの間にか石畳の敷き詰めた綺麗な庭へと迷い込んだ。  海外ドラマに出てくるようなその風景、やっぱりここってただの田舎じゃない。  キョロキョロとあたりを見回してみるとテーブルとイスがならんでいるのを発見。  そして即座に視線はテーブルの上に釘付けになった。  …ぐぅきゅるるるる。  そういや、今日朝寝坊して朝メシ食ってなかった…。  テーブルの上のお上品なお皿に積まれたフィナンシェから目が離せなかった。  う、うまそー。  そっと近くまで寄ってみると、テーブルの近くのベンチになにやらでかい物体があることに気が付いた。  風にそよぐ金髪に近いような茶色のサラサラの髪。  太陽の光でキラキラと輝く白い陶器のような肌。  …そんなものはどうでもいい。  いや、よくないか。ここに人が寝ているってことは、このフィナンシェはきっとコイツのもので…。  でも、一個くらい食べてもわかんないよな!?  だいたいこんなとこに置いてたら固くなっちゃうじゃん?  この人寝てるし、きっとお腹いっぱいで残してるんだよ。  食べ物は大切にしなきゃ。  …一個だけ…。  そっと手をのばして一つ、口に放り込んだ。  な、なんだ、これ。  今まで食べたことないぞ、こんなの。見た目はフィナンシェでも実は違うとか!?  オレが普段食べてるのとはレベルが違う!  …うぅ。  も、もう一個くらい食べてもバレないよな?  もう一つ、口の中に入れた。    …うぅぅぅ。  世の中にはこんなうまい食べ物があったのか!!  多分、いや、絶対、確実に!  オレ、このお菓子の悪魔に魅了されたんだ。  きっとそうだ。  違いない。  あまりのおいしさに涙目になりながらパクパクと食べていて、ふと顔をあげるとベンチで寝ていた人が上半身を起こしてじっとオレを見ていた。  見ているというより、睨んでいる…。  ハっとしてお皿の上をみると、残り一つ…。  どうしよう、この状況、言い訳できないよな。  明らかに怒ってるよな。  そりゃそうだ、起きたらいきなり知らない奴がいて自分のお菓子をほとんど平らげてたなんて…。 「…おい…」  そんな状況でもちゃっかりと味わってからゴクリと飲み込んで、返事をした。 「…はい……」 「何してる?」  この人、目が座ってる?寝起き悪いタイプかなぁ…。 「あの、えっとね、迷子になっちゃって、おいしそうなお菓子があって、それでお菓子の悪魔に魔法かけられちゃったんだよ!」  俯いていた顔をそっとあげて、相手の顔を伺いながら言った。 「…お菓子の悪魔?」 「あ、いや、なんつーか、あまりにもうまくって…つい…ごめんなさい」 「ふぅん…なぁ、こっち来いよ」  えええ!?殴られる?  でも仕方ないよな、痛いのやだけど、勝手に食っちゃったオレが悪いんだし…。  そっとその人の所に近寄った。  その指がくぃっとこっちこいと促したので、顔を近付けるとその綺麗な顔を一瞬まじまじと見つめてしまった。 「さぞかしうまかったんだろうな」  次の瞬間、にやっと笑ったとか思うと、ペロっとオレの唇を舐めた。 えええええ!!!! 「何すんだよ!この変態!」  思わずその顔を殴って、オレは一目散に庭の外へと逃げた。
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