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のんとたまき
「あ、あゆー!」
全力で猛ダッシュして逃げてくると、向こうでノンが左手をぶんぶんと振っていた。
「ノンッ! よかった、すぐ見つかって。ここ危ないから、早く理事長室行こう」
「え? 危ないってなに?」
「へ、変態、変態がうろついてる……ってか、寝てた」
息を整えようと、顔をあげるとノンが首をかしげた。
「変態か……」
ノンの隣にいるメガネの人が、呟いた。
「あー!オレのノンと手繋いでる!」
「…オレのって…」
「あんた誰!?」
この学園はもしかしたら変態が多いのかもしれない、と思ってきっとそのメガネの人を睨んだ。
「あ、ごめんごめん。寮長の久慈珠希です。よろしく、歩くん」
「あのね、アユ、珠希先輩は迷子になってた僕を助けてくれたんだよ。それから僕らを理事長室に案内してくれるって」
「あ、まじで?ごめんなさい。さっき酷い目にあっちゃったからさー、ここって危ない奴ばっかかと思ったんだ」
「あ、あゆ、先輩だから…敬語…」
「いいよ、そのままで。ノンちゃんもね。珠希で」
「オレ、ノンの弟で歩。よろしく、珠希」
一瞬驚いたような表情をみせて、珠希はにっこり微笑んだ。
「ノンちゃんの言う通り、元気だね。ようこそ、白樫学園へ」
珠希に案内してもらって、ノンの左手を握ってぶんぶん振り回しながら歩いた。
「走ったから腹減ったよー」
「でもアユ、なんか食べたんじゃないの?口の周りに何かついてるよ?」
オレはさっきの出来事を思い出して、ごしごしと袖口で口を拭った。
ようやく学園の中に入ったと思ったら、今度は果てしなく続く長い廊下。
深紅のふかふかのカーペットに、脇には如何にも高そうな調度品、美術の本で見たことあるような絵画が飾られていた。
ノンと珠希は何か話していたけど、オレは周りに気をとられて、きょろきょろしている間にやっと理事長室の前についたようだ。
ここは巨人でも住んでんのか!ってくらい高い天井にでかくて、ごってり金の細工を施した重厚な扉。
「なんだコレ…」
「うわぁ」
ぽかーんと口をあけて拍子抜けしているオレ達に珠希が言った。
「ここが理事長室だよ。じゃあまた寮について困ったことがあったら僕の所へおいで」
オレとノンは珠希にお礼を言って、手を振って理事長室の扉とノックした。
「のんのん! あゆあゆ!」
「う、わあおあ」
部屋に入った瞬間、いつものように叔父さんに羽交い締めにされた。
いつものことだから毎回避けようと思ってるのにうまくいかない…。
「大丈夫だった? 迷わなかった?」
「うん、うん」
迷ったとか言ったら大騒ぎするんだろうな、と思って、とりあえず返事しといた。
「伯父さん、苦しい」
いいかげん話してくれないと窒息する、と思って言うと、やっと伯父さんは僕らから離れた。
「ああごめんごめん、あんまりかわいいからさあ」
「だから、可愛いって何! 僕らもうジュウゴなんだけど!」
いつまでも子供扱いするんだからー。
「ああごめんごめん」
オレとノンは叔父さんから制服を受け取って部屋をあとにした。
何かあったら理事長の甥っ子だって言えって言われたけど、できればそんなこと言いたくない。
オレはみんなと楽しくやっていきたいだけだし、自分の問題は自分でケリつけたいから。
理事長の甥とかいうバックグラウンド利用するなんて男としてどうかと思う。
「あれ?こっちだっけ?」
「こっちだろ?」
とか言いながら、やたらと広い校内を迷いながら、なんとか外に出ることができた。
学園を出れば寮までは一本道、その道ですら、白い石畳が敷き詰められて両脇には綺麗な葉っぱとか花が咲いていて、ノンはそれが何だとか説明してくれた。
そういう一生懸命なノンがすごくかわいい。
そうこうしているうちに、目の前には再びでっかい門が現れた。
「ギリシャ神殿?」
「いや、アユそれはちょっと違うと思うよ」
「え?じゃあ大聖堂?」
「それもどうかな…」
というくらいのスケールの、でっかい洋館がオレらがこれから三年間暮らすことになる、白樫館。
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