2■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:歩(了)

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「山田希くんに歩くんだね?」 「はい」 「部屋はそっちの通路まっすぐいって突き当たりね。鍵はカードキーだから。荷物はもう届いてるよ。何かあったらいつでもおいで」 「ありがとうございます」  初老の優しそうな管理人さんが二人分のカードを手渡してくれた。 「同じ部屋でよかったね」 「うん!また三年間よろしくな、ノン」 「ここだね、僕達の部屋」  カードキーをスキャンして、ドアを開けると寮なんて言葉は不似合いな、どこかホテルの一室のようだった。 「すっげぇ!なんか家より豪華じゃん!」  オレはバタバタと駈け込んで各部屋の扉を順番に開けていった。 「洗面台がガラスだー!蛇口が金だ!バスタブが猫足!」 「すごいねー」 「ベッド、それぞれの部屋にあるのにでかくね?セミダブル?」 「ほんとだ。なんでだろう。一人で寝るには無駄だよね」 「風呂も無駄にでかいしなぁ」 「なんでだろうねぇ」 「なんでだろうなぁ」 「そういやさ、寮長の部屋に行かなきゃいけないんだよね」  それぞれ部屋を決めて、制服を置いて真中の部屋に戻ってきたとき、ノンが言った。 「あー、そうだっけ。オレ腹減っちゃったよぉ。さっさと行って飯行こう~」 「あはは。あゆってば腹へった、ばっかりだね」 「だってさぁ今日めっちゃ走ったんだもん」 「そう言えば今日何があったの?」 「えー?なんかフィナンシェがいっぱいあって、おいしすぎてお菓子の悪魔がキ…」  急にさっきの場面が頭の中によみがえった。 「き?」 「んー、なんでもない。とにかく、金髪の悪魔には近づいちゃダメだぞ!ノンはかわいいんだから」 「金髪の悪魔ぁ?よくわかんないけど。もう、僕かわいくないってば」 「かわいいのよーん。さぁさっさと行こう」  オレはノンの肩に手を置いて、二人できゃあきゃあ言いながら電車ごっこをするように誤魔化して、ふざけて部屋を出た。  珠希の部屋は5階にあるらしいけど、エレベーターに乗ってみたらボタンが4階までしかなく、階段も見当たらず、オレ達は途方にくれた。  でもとにかく進むしかない、と思ってノンの手を掴んでどんどん進んだ。 「……ね、ここ、401号室ってさっきも通ったよ」 「へ? そうだっけ? ああもっ、どうすんだよ。5階に行けねえじゃんッ」 「しっ、あゆ声がおっきいよ」 思わず大きな声で叫んでしまって、ノンに注意された。 「君たち、ここでなにうろうろしてんの? 3年じゃないよね」  振り向くと、生徒らしき人が立っていた。 「ああッ?」  何って明らかに迷ってるだろうが。  腹へってんのにぃ。  ノンがそいつに説明すると、道を教えてくれた。  お礼を言って、言われた通り大きな扉へと急いだ。 「はぁ、なんで急に走るの?」 「だって、あいつ金髪の悪魔と同じ匂いした! なんかノンのこと嫌な目つきで見てた」  なんか感じ悪い。  嫌な予感がしてノンを引っ張って走ってきた。  無事についた珠希の部屋は、ペガサスがあって、なんだか更にすごかった。伯父さんの趣味ってわかんねぇ。  とにかくオレは腹が減って仕方なかったので、珠希にそう言ったら、説明は飯食いながらでもいいって言ってくれた。  珠希っていい奴!  何があるのかなー♪当然すげえ料理とかあんだろうなぁ。  早速三人で食堂に向かう途中、突然後ろから声がした。 「お、珠希じゃん、ちびっこ連れて」 「アッ! 悪魔!」  危ない!ノンを守らなきゃ。  咄嗟にオレはノンの手を握って後ろに隠した。 「空也、またおイタしたね? この子に」  クウヤ?  珠希の知り合い?  そいつから目を話さないようにしながら、珠希の後ろに隠れた。 「おいおい酷いな天使ちゃん、ってか堕天使? だいたいさっきのはお前が勝手に人のもの食うからだろ? 」 「だからって、あんなっ」  やだ、もう。近付きたくない、コイツには。  珠希の後ろから睨んでると、珠希が優しく頭を撫でてくれた。 「空也、怖がらせちゃダメだよ」 「悪かった。寝ぼけてたんだ。オレは生徒会長の紫堂空也」  紫堂空也はふっと優しく笑った。 「あ、僕山田希です。えっと、こっちは弟の歩です」 「よろしく、希、歩。学園でわからないことがあったらなんでも俺に相談しな」  …胡散臭い。  オレは相変わらず珠希の後ろから空也をじっと睨んでいた。 「随分と嫌われたねぇ、空也。御自慢のプリンススマイルも効果無しだね」  珠希がくすくすと笑って、ノンが困った顔をした。 「あゆ、どうしたの?空也先輩いい人じゃない」  嘘だ、絶対。 「食事?俺も一緒にいっていい?」 「もちろんです!」 「歩は?」 「…やだ」 「あゆ!」 「そうか、残念だな。せっかくお詫びとお近づきの印にVIPにしか注文できない最高級国産和牛をごちそうしようと思ったのに」  …に、にく!? 「…一緒に来てもいいよ」 「あゆー食べ物につられてる…先輩だから敬語で、ね?」 「いいよ、希、敬語なんて堅苦しいものは」  にっこりと笑うその顔は、非の打ち所がない程綺麗だけど、やっぱりこいつ胡散臭い…。
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