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1年F組
講堂に入って、オレとノンはクラスが別なので離れた席へ着いた。
式が始まって、伯父さんが何やら長々と話していたので、オレはだんだん眠くなって、うとうととしだした。
時々顔をあげて壇上を見ると、空也の姿が目に入った。
生徒会長として生徒代表で挨拶をするらしい。
壇上に立つ空也の姿は、初めて会った時の寝ぼけた悪魔とも、昨日一緒にご飯を食べた時とも違って、随分大人びて見えた。
なんだか全然知らない人みたいだ。
そう思ってまたうとうとと微睡んだ。
ゴツッ
「いてっ!」
いきなりおでこに衝撃をくらい、思わず声をあげた。
何だ? と思っていたら周りがざわつき出して自分がうとうとと眠ってしまって体勢を崩し、頭から落ちたことに気が付いた。
壇上を見ると、唖然とした顔の空也が、ぷっと少し吹き出して、すぐに気を取り直して話を続けた。
いてー。
やばいな、入学式から目立っちゃった。
周りからひそひそと、嫌な感じの声が聞こえた。
次に珠希が寮長として、寮についての説明を始めた。
さすがにおでこがジンジンして再びうとうとすることもなかった。
長い退屈な入学式を終えて、クラスへと移動した。
ノン、大丈夫かなぁ。
でもノンは素直でいい子だから、問題ないか。すぐ友だちもできるよな。
ふあっとあくびをしながら教室に入ると、みんなが一斉にオレを見てひそひそと話し出した。
「おはよー」
挨拶をしてみたけど、更に怪訝そうな顔でひそひそと話すだけで誰も返してはくれなかった。
ま、いっか…。
外部生って珍しいんだよな。エイリアンみたいな存在?
結局その日は終始周りから遠巻きにひそひそと言われるくらいで、誰とも話はしなかった。
…つまんねえの。
担任の挨拶が終わって、始業式についての説明が終わって、寮に戻る為、教室を出ようとしたら、体格のいいでかい奴が目の前に立ちはだかった。
「ねぇ、君、ちょっと話があるんだけど」
お?初友だち?
「え?何?」
「ちょっと来てよ」
なんだろー。
校内案内でもしてくれるのかな?ちょっと人相悪いけど、いい奴だな。
オレは何も知らず、にこにことそいつの後をついて行った。
「外部生のくせに、生意気なんだよ。ここには色々とルールってもんがあるんだよ」
連れて行かれた校舎の外れに、他に二人でかい奴が待っていた。
ん?
どうやらお友達になりたいってわけでもなさそうだ。
「でもかわいい顔してるよな」
そのうちの一人が俺に近寄ってくる。
「かわいい?」
ムっとして、俺はそいつを睨んでやった。
「自分のおかれてる状況わかってんの?その華奢な体で俺ら三人にかなうとか思ってる?なぁ、ちょっと楽しませてくれたら俺らがかわいがってやるよ。俺らと一緒にいれば学園生活も安泰ってわけだ」
「楽しませる?」
なんだ、こいつら。
一緒にいれば安泰って、そういうのって友達とはいわないじゃん。
「その綺麗な肌もっとよく見せてみろよ」
そういって三人が俺を囲んで、リボンをするりとほどいた。
「はぁ?」
何言ってんだ、こいつら、気持ち悪い。
「近くで見ると更にかわいいな、まじで」
「ちょっと、やめろよ」
シャツのボタンを外してきたので、俺は身をよじろうとしたけど、後ろの奴に押さえられて動けなかった。
冗談じゃない。
ボタンを外してる奴の手を掴むむと、そいつが俺の胸ぐらを掴んだ。
「大人しくしてれば痛い目にはあわせないってのに。俺達だって仲良くしたいんだぜ?」
襟元が、ギリっと締め付けられて苦しかったので、俺はそいつに唾を吐きかけてやった。
「お前らなんかと仲良くなんてしてやんねーよーだ」
「コイツ!」
隣の奴が殴り掛かってきたので、それを避けて、後ろの奴に肘打ちを食らわせ、そのまま身を捻って隣の奴に回し蹴りを食らわせた。
「三人でよってたかって。そういう卑怯なの大っ嫌いなんだよ!」
その三人をのしたところで、騒ぎに気付いた生徒が呼んだ教師が走ってきて、タイムアウト。
「君! 何してるんだ! 入学式早々!」
神経質そうな教師が俺に向かって叫んだ。
「先に手を出してきたのはこいつらで、俺は悪くない」
「理由はどうであれ、校内で乱闘騒ぎだなんて…!とにかく、職員室に来なさい!」
話を全く聞いてくれない教師にひっぱられて、俺は三人と一緒に職員室にひっぱられて行った。
職員室に連れて行かれて、教師に停学だの、説教されている時、ドアが開いて空也が現れた。
「先生、何か御用ですか?」
ちらっと俺に目をやって、空也がにっこりと笑って教師に言った。
「紫堂君、悪いね、まだ授業も始まってないというのに」
そう言って教師が空也に俺と三人を不良だとか言った。
「ですが、先生」
全く俺達の話も聞かずに捲し立てる教師に対して、空也が笑顔で一言。
「僕にはこの生徒が不良には見えませんが? 内申書だって問題なかったでしょう? しかしそこの三人は問題ですね」
一瞬、三人を見る空也の目が怒りをあらわにして、すごく鋭かった。
三人はもちろん、俺までちょっとすくんでしまったくらい。
「中等部でも何かと問題を起こしていたようですし。今回もその生徒に暴行しようとしていたとしか思えませんが?どうですか?山田くん」
突然話をふられて、少しうろたえてしまった。
「あ、うん。話があるって呼び出されて…」
「ほう。異議はありませんね?」
再び空也が三人に鋭い視線を送る。
『は、はい!申し訳ございません!』
三人が声を震わせて言った。
「ということで、先生、今後このようなことがないように、ちゃんと生徒の話にも耳を貸して下さいね」
にっこりと、有無を言わせぬ笑顔が、なんだか母さんと重なった。
「は、はい。すいません」
「いえ、先生、山田君に謝ってもらえますか?」
「…すいません、疑ってしまって」
さっきまでの態度と違い、かなり小さくなって教師が俺に言った。
「別に誤解が解けたならいいです」
そう言って、職員室を後にした。
…空也に助けてもらったんだよな。お礼、言わなきゃな。
なんだか自分の力の無さを思い知ってしょんぼりして寮に向かって歩き出した。
「歩!」
数歩歩いた時、後ろから空也が呼び止めた。
「あ、空也。さっきは、どうもありがとう」
「え?何?」
「いや、助けてくれたんだよね?」
「別に。だって歩は何も悪いことしてないだろ?」
「え?ああ、そうだけど…」
俺一人の力じゃ結局何もできなかったんだ。
「と、とにかく、ありがとう」
「うん?さぁ、寮に戻ろう」
空也はくすりと笑って、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「もう!頭撫でんなよ!子供じゃないんだから!」
「子供のくせに」
「やめろって!」
俺が嫌がるとしつこく頭を撫でてくる空也から、逃げるようにして寮に戻った。
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