2■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:歩(了)

8/8

217人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
「あ!あゆ!心配してたんだよ!」 部屋に帰ると泣きそうな顔で俺に駆け寄ってくるノンの後ろに、珠希がいた。 「ごめん。あれ?珠希どうしたの?」 「ノンちゃんがね、歩くんのこと心配だって言うから、空也が多分行ってるだろうって話してたんだ」 「あ、そう」 ……。 「じゃあ、僕戻るよ。のんちゃん、歩くん、また後でね」 「うん、ありがとう珠希」 「…ありがと」 ノンが笑って珠希を見送った。 「ねぇ、何があったの?」 「え?別に何もないよ」 「でも制服も乱れてるし…珠希が空也先輩がいるから大丈夫って言ってたけど…」 「何もないって!」 何故だかわからないけど、今までこんなことなかったのにノンにいらついて大声を出してしまった。 「…あ、ごめん」 「…ううん。疲れてるよね、ごめんね僕こそ」 明らかにうろたえてるのに、無理して平気な振りをするノンと俺の間に気まずい空気が流れた。 「あ、友達できたか?」 何か話をしなきゃと思って、口に出した。 「…うん…、最初は誰も話し掛けてもくれなかったんだけど…一人だけ…」 「そっか、よかったな」 …そっか、ノン、ちゃんと友達できたんだ。 「あゆは?」 「え?俺?あったりまえじゃん、うまくやってるよ」 俺はにっと笑って言った。 …多分、慣れれば大丈夫。そのうちうまくやってけるよ。 ノンに余計な心配させられない。 「そうだよね。あゆはいつも人気者だもん」 「そうそう!」 「あ、そうだ、珠希に温室でランチしようって誘われたんだけど、あゆも行くよね?」 「え?…ああ、俺いいや。なんか寝不足だからちょっと寝る」 「一人で大丈夫?」 ノンが心配そうな顔で俺の顔を覗き込む。 「だから寝不足だって、寝れば治る」 俺はまた、にっと笑ってみせた。 「うん、わかった。じゃあゆっくり休んでてね。何かあったら電話してね?」 しつこく念を押すノンを、俺は見送って、部屋で一人になった。 …なんだよ、珠希、珠希って…。 なんだかおもしろくなくって、自分の部屋に入ってベッドに潜り込んだ。 腹減ったなぁ。 でも食堂、行きたくないな。 だるい。 …変だな。いつもなら何があっても飯食いに行くのに。 遂に腹の虫が激しくなり出した時、チャイムがなった。 「なにー?」 ノンが鍵忘れていったのかと思って扉をあけると、珠希が立っていた。 「よかった、歩くん、いた。お腹すいたでしょ?」 「わ!サンドイッチ!」 ああ、もうなんてグッドタイミング! 「ノンちゃんが心配してたからね。寝てたらテーブルにでも置いておこうと思ったんだけど」 「あれ?ノンは?」 そういえばノンがいないな、と思って、きょろきょろと扉のほうを見た。 「空也にお花の説明をしてたよ、一生懸命。もう来ると思うよ、一緒に」 ふふっと珠希が笑った。 …そう、ノンは俺と違って素直でかわいいから。いつも大人にいい子ねって可愛がられるのはノンばっかり。 「どうしたの?」 一瞬考え込んでしまった俺に、珠希が心配そうに訊ねた。 「あ、ううん。なんでもない。いただきまーす」 「かわいいよね、ほんとに。のんちゃんも歩くんも」 …。 「珠希、ノンのこと好きなの?」 「え?…そりゃ、のんちゃんも歩くんも大好きだよ。かわいくって」 嘘だ。そんなの。 俺かわいくないもん。 「え?え?どうしたの?歩くん?」 むーっとうつむく俺の頭を珠希がそっと撫でた。 「あゆー、大丈夫?」 ノンの声がして、扉が開いた時、俺は珠希に抱き着いた。 「…え?」 ノンがそれをみて、一瞬固まって、すぐに踵を返して駆け出した。 その隣で空也も一瞬目を見開いた。 「おい、希!?珠希、何してんだよ!」 「え?いや、歩くん?ほら、離して。のんちゃん追い掛けなきゃ」 「やだ!どうしていつもノンばっかなの!?」 自分でも、なんでこんなことをするのかよくわからなかった。 俺ってほんと最低でやな奴だ。 「歩くん、違うでしょ?僕じゃなくて、ほんとはノンちゃんを捕まえたいんでしょ?」 「うぅ…」 珠希の言葉に、ぱっと手を離して、うつむいた。 「どういうことだ?」 事情がわからない空也が近付いて珠希に訊ねた。 「歩くんはのんちゃんをとられると思ってるんだよ。ごめんね、歩くん、僕そんなつもりじゃないんだけど…」 「珠希、ノンのこと、好き?」 俺はもう一回珠希に訊ねた。 「うん。すごく気になるんだ。でもまだノンちゃんには内緒にしといて」 今度はしっかりと、珠希が返事をして、俺は泣きそうになった。 「じゃあ追っかけて」 「わかった。連れ戻すから、ちゃんと謝って仲直りするんだよ?」 「うん…」 駆け出す珠希に向かって、俺は言った。 「珠希なら、いいよ」 その言葉ににっこりと珠希が笑って走って行った。 ノンが走り去って、珠希が後を追って、部屋に残ったのは超不機嫌な空也と、ぼたぼたと涙を落とす俺。 「…なんだよ、俺だけ仲間外れ?」 「…うっ…ひっく」 拗ねていた空也だったけど、あまりに泣きじゃくる俺に見兼ねて、ティッシュで顔を拭いてくれた。 「かわいい顔が台無しだな」 「…かっ…い…!」 「はいはい。とりあえず落ち着いて」 空也に差し出されたティッシュで鼻をちーんとかんで、呼吸を整えた。 「…ノンが帰ってくるまでに泣き止まなきゃ…」 空也が俺の顔を拭きながら、ふぅっと息をついて言った。 「思ったんだけどさ、なんでそう意地張んの?」 「な、なんでって…、だって俺がノンを守るんだから、頼りなかったら駄目だろ」 「ばっかじゃねーの」 ソファの背もたれに倒れかかりながら、空也が言った。 「なんだよ!なんでいつも空也ってそうやって俺のこと馬鹿にするわけ? ちびだとかガキだとか…」 「あのなぁ」 空也がまた身を起こして、じっと俺の目を見つめた。 「お前にも希にも、もう俺と珠希っていう心強い味方がいるだろ?少しは頼れよ」 「…頼れっていったって、だってまだ昨日会ったばっかり…」 「お前が遠慮するタマかよ」 「…うっ」 俺だってたまには遠慮くらいするぞ。 確かに昨日会ったばっかりで空也のおやつを二回も黙って食ってしまったりしたけど…。 「俺が言うからにはそうなの」 「へ?」 「だから、俺が言ったら、もう俺も珠希も歩と希の味方だって言ってんじゃん」 「え?何それ、俺様ルール?」  ちょっと待って、空也って、おかしい。生徒会長の時の顔と全く違うじゃん。そう思って、ぷっと吹き出した時、空也が笑った。 「やっと笑った」 「そうだよ、空也の言う通り」 ドアの方を振り返ると、珠希とノンが戻ってきていた。 「僕も空也も二人の味方だから、いつでも頼っていいんだよ」 にっこりと笑う珠希の横で、うつむいたノンに俺は駆け寄った。 「ノン、ごめん。ほんとに、ごめんね」 俺はまた泣きそうになったけど、俺が酷いことしたのに泣くなんて調子がよすぎると思って、ぐっと涙を堪えた。 「…ううん。僕の方こそ、ごめんね」 「なんでノンが謝るんだよ」 ノンが謝りながら泣き出したから、俺も我慢できなくなって涙がこぼれた。 遂には二人で謝り合いながら泣くもんだから、空也も珠希も笑いながら見守っていた。 「ところでさ、何?珠希だけ抜け駆け?」 「え?なんのこと?」 いきなり問いかける空也に、わけがわからず珠希がきょとんとする。 「携帯だよ。いつのまに番号交換してんだよ」 空也は、テーブルにあった俺の携帯を勝手にあけて自分の携帯に番号を入力し、俺の携帯をならし、更に俺の携帯の電話帳から、ノンの番号を探して自分の携帯からノンの携帯をならせた。 「ふたりとも登録しとけよ」 「空也!勝手に人の携帯さわんないでよ!」 わんわん泣いてた俺だけど、さすがにその空也の強行には驚いて涙が止まってしまった。 ノンは唖然として空也を見つめ、珠希は苦笑をした。 でもなんか、全然嫌じゃなかった。 ほんとに、俺様ルールなんだから、と思って、また俺も吹き出してしまった。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加