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3■球技大会☆双子スター誕生!? SIDE:希(了)
始業式
「歩、希、学校行こう」
アユを急かしてやっと準備が出来たころ、珠希と空也先輩が迎えに来てくれた。
それも、約束した訳じゃなくって、突然。
珠希はあのくしゃくしゃの笑顔で僕を見下ろしている。
昨日は、学校に行くのが不安でしょうがなかったけど、友達ができたから、今日はそんな心配しなくていい。
と、思ってたけど。
僕は部屋から出た瞬間、固まって動けなくなった。
廊下には学校に行く為に部屋から出てきたたくさんの生徒がいて、そのみんなが、珠希と空也先輩を、そして僕とアユを見ている。
珠希と空也先輩のことを見る目と、僕らを見る目は、もちろん違う。
その刺すようなちくちくした視線から、走って逃げ出したくなる。
空也先輩がアユのリボンを結び直すのを、近くにいた子が睨みつけるように見ていた。あんまりその顔が恐くて、思わず僕がびくっとした。
寮から校舎まではそんなに遠くないけど、今日はその道が永遠に続くような気がした。
四方八方から、視線を感じる。
「ごめん、また失敗しちゃったかな」
俯きながら歩く僕のそばで、珠希がそう呟いた。
食堂に行った時と同じように、こんなふうに僕らが注目を浴びていることに、責任を感じてしまったんだろう。
でも。
だからって、珠希や空也先輩と一緒にいたくないのとは違う。
せっかく仲良くなれたんだし、それに、僕はふたりのことが大好きだし。こんなことでもう珠希と会えなくなったりするのは嫌だ。
せっかくできた、友達なのに。
「ううん。いい。気にしない」
「え? ほんとに大丈夫?」
僕が珠希を見上げてにっこり笑うと、彼は驚いたような顔をした。
「うん。だって、気にして珠希と一緒にいられないのは、やだもん。だから、いい」
言ってる途中で、なんだか恥ずかしくなってきて、途中からたどたどしくなってしまった。
変だったな、って思ってると、珠希のおっきな手が延びてきて、僕の髪の毛を掻き回した。
「なんていうか……のんちゃんって、すごいね」
……?
珠希が困ったように笑いながらそう言ったけど、僕にはさっぱり意味がわからなくて、首を傾げるしかなかった。
「もう、どうしようもなくかわいい、ってこと」
珠希はまた顔をくしゃっとしてそう言ったけど、やっぱり僕には、どこからどうなってかわいいのか、分からなかった。
講堂に入ってみんなと別れると、僕は1年A組の列に並んだ。
昨日と違って、今日は出席番号順に立って整列しての始業式だ。
順平はまだ来てないみたい。
そう分かるとまた不安になってくる。
A組だから一番端でいいよね。
そう思って、端の、後ろの方にいる。昨日ちゃんと見てなかったせいで、近くにいるのが同じクラスの子なのか分からない。
それに、やっぱりさっきまでと変わらずみんな僕を見てひそひそ話す。
はあ、やだなー。
「おはよ、希ぃ」
「わああっ」
ぼーっとしてると、いきなり後ろからぎゅううっと抱き締められた。
「おはよ」
耳もとに息がかかってくすぐったい。
「お、おはよ、順平ッ」
僕はその腕からなんとか逃れながらあいさつした。順平はにっと笑う。
そんな僕らを周りにいた子たちが凝視している。
やっぱり、気になるな。
式が終わって、教室に戻ると、担任の先生が来た。白髪混じりで小太りの、優しそうな佐藤先生。怖そうな人じゃなくってよかった。
それからいろんな委員会決めがあったけど、僕は外部生だから学園のことをよく知らないってことで、先生は他の生徒を指名してくれたから、ありがたかった。
「順平。僕、やっぱりクラスで浮いてるよね。もし順平が話し掛けてくれなかったら、今日もひとりぼっちだったと思うんだ」
僕が真面目にそう言ったのに、順平はまた僕の髪の毛をめちゃくちゃに掻き回して笑った。
「ほんっと、希ってば分かってねー」
「ええ? どういうこと?」
「ほら、分かるか? 今俺が希と仲よさげにしてんじゃん、で、みんな見てるだろ?」
順平はまだ僕の髪の手を差し込んだまま、声を潜めて耳もとに近付く。
言われて周りを見ると、ほとんどクラス全員が、僕らに大注目していた……。??。
「で、それって、こういうこと」
順平は僕から離れると、隣の席の男の子に唐突に話し掛ける。
「いいだろ、シュウ」
「おまえ、いいかげんにしろよー、悪乗りしすぎ」
シュウって子は順平に笑顔を向ける。っていうか、苦笑い。
「だってさ、なんで無視してんだよ、こんなかわいいのに」
順平はまだ僕の髪をいじくってる。
「あの、山田くん、ぼく舟木修一(ふなきしゅういち)、シュウって呼んで」
「うん。よろしく。シュウ。僕は山田希」
新しい友達だ。そう思って緊張して、なんか声がうわずっちゃった。
シュウはパーマのかかったふわっとした顎までの髪で、すごくおしゃれさんって感じだ。
「くうぅー、たまんねー」
「お前が悪い。たち悪い噂に惑わされてさ。この希が、あの久慈先輩を誘惑したテクニシャンに見えるかよ?」
テ、テ、テクニシャン?
誘惑??
順平が言ったことにびっくりして、僕は目をぱちくりさせた。
日本語なのに。
ふたりの言ってる意味が分からない!
「ああ。だよな……だよなぁ。確かに、なんか思ってた感じと違うなって、昨日見たとき思ったんだけどさ。でも、この見た目なら、ほら、久慈先輩も……とか思って」
珠希が、なに?
「でさ、話戻すけど。結局さ。みんな噂に翻弄されてるだけ。でも内心、同じクラスになったこと喜んでもいる……なんていうか、新鮮だし。やっぱ希かわいいし」
またかわいいって言う! って心の中で突っ込んだけど、順平が真剣に話してくれてるから、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「あのー、だからさ。えっと、昨日は悪かったよ。順平が話してるの見て、ほんとは俺も話したいなって、思ってた……だから、みんなほんとは希と仲良くしたいってことだよ」
シュウが照れたように笑ってそう言った。
そうなの?
ほんとは、僕と仲良くなりたいとか、思ってくれてるの?
もしもそれが本当だったら、すごく嬉しい。
そう思って、シュウの前の席に座っている子を見てみると、彼も僕を見ていて、目が合った。
シュウや順平が言ってくれたことを信じて僕は笑いかけてみた。
すると彼も、笑ってくれた。
びっくりして順平を見る。
「な? そういうこと。お前、なんて名前?」
順平は僕に笑いかけると、彼に話し掛けた。
「俺、原誠一。そいや、一回も同じクラスになったことないよな」
そう答えて、彼は笑う。
「よろしくな」
原くんは笑いながら僕らの方へ椅子を引き寄せて来た。
「いいな、誠一、俺、浜岡」
「俺、榊原」
気がつくと、僕の周りにクラスメイトが押し寄せていた……。みんなには申し訳ないけど、一度にみんなの名前を覚えられそうにない。
それでも、僕は嬉しくって、笑うどころかもう泣きそうになっていた。
「あ、の。みんなありがと。僕、みんなと同じクラスになれて、すごく嬉しい。これからよろしく」
周りから一斉にうめき声っていうかため息が聞こえてきた。
「希、だめ、そいう顔あんますんなよ。襲われんぞ」
「へ?」
急に目の前が真っ暗になって、僕の顔を順平のおっきな両手の平が覆っていることに気づいた。
順平の手の平の中で僕は考えていた。
襲われるって……なに?
「まあとにかく、希は顔がかわいいから。ここには、野獣みたいな奴もいるわけ。もちろん俺は違うぞ。だから、気をつけるに越したことはないんだ。いいな?」
シュウがそう言ったから、ほんとは意味わかんなかったけど、一応頷いた。
「希、絶対分かってねぇだろ」
「ん」
僕がごまかして笑うと、またみんなからため息が聞こえてきた。
「俺ら守るし!」
「そうだよっ、困ったことあったら言ってよっ」
みんなからそんな言葉がかけられる。
嬉しい、っていうかもう、感動してジンとする。
「ありがと」
僕はなんとか涙をこらえて、みんなを見上げた。
「希ぃー、かわいい! たまらん!」
そう言ってシュウが僕の髪を激しくかき回した。
なんか、ほんとに僕このクラスでよかった!
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