3■球技大会☆双子スター誕生!? SIDE:希(了)

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 F組ももうホームルームが終わっていて、生徒たちがぞろぞろと出てくる。 「あ、希くん。歩くんなら学級委員会議に行ったよ。紫堂先輩が迎えに来た」  順平と僕に気がついた実が鞄を持って出てきた。 「そうなの? アユ、学級委員になったんだ?」 「うん、そう。担任の指名で」 「へえ」  僕なんて担任の先生のおかげで委員会には入らずにすんだのに。優しい先生でよかったなあ。きっと、アユはしっかりしてるから大丈夫だろうけど。  空也先輩もいるみたいだし。 「ミノ、今紫堂先輩が来た、って言った?」 「うん言った。もうクラス中騒然となったもん。僕、先輩あんな近くで見たの初めてかも」  先輩が後輩のクラスに来るっていうのは、やっぱりめずらしいのかな。 「ねえ、委員会って時間かかると思う?」 「え? ああそうだな。1時間くらいはかかるんじゃないかな。一緒に寮に戻ろうよ。いろいろ聞きたいこともあるし」  順平がそう言ったから、僕は頷いて、寮へ向かって歩き出した。  「なあ? 希、昨日帰りに電話してたのって。久慈先輩?」  唐突に順平が言った。 「うん。そう。アユのこと、珠希ならなんか分かるかなって思って。でも、結局、空也先輩がアユのこと助けに行ってくれて、それにもともとアユは悪くなかったし。ごめんね、昨日はちゃんと説明もせずに先帰っちゃって」 「あ、んん。うん、」  僕がそう言うと、順平も実も変な顔のまま、固まっていた。 「どうしたの? ふたりとも」 「希、あのさ、なんでふたりのこと名前で呼んでんの?」  実が、不思議そうに言った。 「なんで、って。そう呼んでって言われたから……? え? みんなそう呼んでるんじゃないの?」 「なに言ってるのっ、恐れ多い! ってか、俺なんか一度も口きいたことないよっ」 「え? そうなの?」 「まあまあミノ、そんな興奮すんなよ……で、どうやって知り合ったんだ?」  「うんと、一昨日初めてここに着いた時、僕迷っちゃって。で、アユともはぐれちゃって気がついたら薔薇園に紛れ込んでたんだ。で、珠希に会ったんだ。アユはその時に違うとこで空也先輩と会ったみたい。ふたりとも、すっごく親切だよ。僕らじゃなくっても、困ってたら助けてくれたんじゃないかな?」  別に、僕らが特別っていうんじゃないと思うんだけどな。 「そういえば昨日聞きそびれちゃったんだけど、ふたりが言ってた勝ちとか負けとか、なんのことだったの? たしか、順平が勝った、って言ってたよね」 「ああ、それぇ、それは双児が噂通りの小悪魔ちゃんかどうか、って賭けたの」  実は面白くなさそうに言う。 「そ、ミノはきっとタチの悪いすんごいプレイボーイが来る、とか言い張っててさ。あ、ごめんこいつに悪気はないんだから」  僕が困った顔をすると、順平がフォローした。 「そうそう、今日ちゃんと歩くんとも話したよ。いい子だよね。ま、どうせ僕が賭けに負けたわけだし」  実は眉間にしわを寄せて言う。 「で? 負けたって、なにを賭けてたの?」 「ええ? お互いなんでも命令できるってことに、でさー。僕ジュンになにさせられるのか、って思ってたんだけど、キスだって。案外簡単で安心したよお」  ……キスッ!?  僕は驚いて、順平を見上げた。順平は、顔が真っ赤だったけど、実は順平の少し後ろを歩いているから気がついてないみたい。 「うっせえミノ、ぺらぺら喋ってんじゃねえよ」  順平は僕と目が合うと慌ててそらして、そう言い捨てた。  ……? 「俺らのことはいいから、で? なんで先輩たちのこと名前で呼んでるんだ?」  順平がまだ真っ赤な顔でそう聞くから、どうしても話題を変えたいんだと思って、僕は素直に従った。 「初めは久慈先輩って呼んでたんだけど。珠希にそう呼ぶのは禁止だって言われたから」  そう話しながら、どうしてか顔が熱くなる。  返事がないのが変だと思ってふたりを見上げると、口をぽかんと開けたまま僕を見ていた。 「なに?」 「いやなんていうか、今さらながら、噂もまんざらじゃなかったのかと思って」  噂? 噂っていうのは、僕やアユが遊んでて、誘惑した、とかそういう?? 「順平!?」 「あ、いやごめん。そんな訳ないよな」 「そうだよっ」 「でもね、希くん。あのふたりが後輩を近寄らせるなんて、ないんだよ? ファンはたくさんいるけど。優しくしてくれても、それ以上踏み込めないっていうか」  実は珠希と空也先輩のことをそう言った。でも、僕にはぜんぜんわかんない。 「紫堂先輩は王子って呼ばれてるし、久慈先輩は薔薇の貴公子って呼ばれてる。ふたりはずっと仲良くて、でも、他の者を寄せつけないっていうか。もちろん、親切だし優しいからこんなにも人気があるんだけど。なんていうか、完璧すぎて誰も近付けないっていうか。それゆえに、よけいに人気が増したんだろうけど」 「へえ……」  僕は、我がままを言ってアユを困らせてる空也先輩とか、靴を泥だらけにして薔薇の世話をしている珠希を思い浮かべた。  そんな、サイボーグみたいに言われるような人たちじゃないと思うんだけど。 「まあそこに、するっと双子ちゃんが入ってきたわけ。だから、みんな驚いてるの」  実が順平の後を引き継いで言った。 「じゃあ、珠希と空也先輩は、ずっと昔から仲良しなんだ?」 「うん。そうだね、なかよしっていうかなんていうか」 「つきあってんのかな。あのふたり。実は、僕らにもよくわかんないんだよね」  ……? つき合う?  実が言った言葉に耳を疑う。  実と順平がキスしたって言うし、珠希と空也先輩が……? 「実際、紫堂先輩はつまみ食いとかしてるみたいだしさ、そういうの当然久慈先輩は知ってるだろうし……なんっていうか、久慈先輩は紫堂先輩を包み込む愛っていうか、耐え忍ぶ愛っていうか、そういう……あ、希? 大丈夫?」  実の言葉を、僕は一生懸命理解しようと勤めていた。ふたりから少しは学習したから、そのつまみ食いっていうのがもちろん食べ物のことじゃないっていうのは分かってる……。 「あの、あの……」 「ミノ、ストップ。希、まだ初心者なんだから」 「ああ、そうだった。ごめーん」 「あの、さ……。ここってもしかして、男同士の恋愛とか、当たり前なの?」  僕はふと思ったことを口に出していた。 「うん。まあ、そういうこと。だって、ずううっとここにいるんだもん。土日とか夏休みとか、そういう時に外で彼女作るっていっても、簡単にはできないし。自然と、そういうことも多くなるね」 「へえ……」  へえ。  僕はびっくりして、ただそう言っただけだった。 「あのー、希。そういうの、どう思う? 外から来たわけだし。やっぱそういうのって、引く? きもいとか思う?」  順平が心配そうな顔で僕を見下していた。  ふいにさっき真っ赤になっていた順平の顔を思い出した。  順平、実のこと好きなんだ。  そっか。 「うんと。やっぱり男同士って聞くと、ちょっとびっくりするし引いちゃう部分もあるかな……。でも、誰かが誰かのこと、本気で好きになって、それでたまたま相手が同性だったとしたら、それは、しょうがないんじゃないかなって思う。だから、きもいとか、思ったりしないよ」  僕は、今思ったことを素直に口にした。順平と実が付き合ってるとしても、別に気持ち悪いとか思わないな、って。 「で? ふたりは付き合ってるの?」 「え? 紫堂先輩と久慈先輩?」 「ううん、順平と実」  僕がそう言うと、順平は目を見開いて固まってしまった。みるみる顔が真っ赤に染まっていく。 「なあに言ってんの! ありえないっ、ちっちゃい頃からお泊まりとか体の洗いっことかしてたんだよぉ? 今さらそんな気起こんないよ、なあッ? ジュン?」  実は、そう言って笑った。 「あ? あ、ああそうだよ。ほんっと初心者。希ってば」  そう言って、順平は僕の頭をかき回した。でもそれは、じっと見上げる僕の視線から避けたかったからじゃないかと思った。  ふたりと別れて部屋に戻って来た時、携帯がポケットの中で震えた。  着信の表示は珠希。 「はい」 『のんちゃん。今、暇?』 「うん、ちょうど寮に着いたとこ」 『そう。歩くんは委員会だよね?』 「うん」 『じゃあ、ランチまだだよね? 空也も委員会だし、ふたりが戻ってくるの待って、テラスで一緒に食べない?』 「うんっ、そうするっ」 『じゃあ、薔薇園に来てくれる?』 「すぐ行くっ」  携帯を切ると、僕は急いで部屋を出た。  今朝会ったばかりなのに、珠希に会えると思うと、すごく嬉しくなった。
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