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「いや、なんか…」
「…うん、なんか話してみると想像とは違ってたけど…」
リンと実が交互にいうと、二人で声を揃えて言った。
「やっぱりかわいい!」
そして後ろで竜がぼそっと「かわいい」とつぶやいた。
「全く、どんな想像だよ」
「だからぁ、あゆは小悪魔テクで紫堂先輩を誘惑しちゃって、昨日の入学式は一晩中寝かせてもらえなくて貧血で倒れちゃったって言う」
「…昨日は普通に眠くて寝ちゃっただけだけど…座ったまま」
一晩中寝かせてもらえなかった、ってなんだ。
ぐっすり眠ったぞ。
アルコールのおかげで。
「かわいいとか言うけど、俺よりよっぽど実の方がかわいいじゃん」
そう言うと、実がぼっと顔を赤くした。
「や、やだなぁ、歩くんてば」
「ねーねー僕は?あゆぅ」
リンがいつのまにか俺の机の上に座って、俺の顎を人差し指で触れた。
「リンは美人だと思う」
にっこり笑って言うと、リンがまじまじと俺を見つめた。
「ね、あゆ、今から僕の部屋来ない?」
その時、リンが竜に腕を掴まれて机からひきずりおろされた。
「もう!竜!いいとこだったのに!相手にされないからひがんでるんでしょ!?男らしくないわ!」
助けてくれた竜に向かって、俺はまたにっこり笑った。
「竜はかっこいいよね」
次の瞬間がっしと竜に抱きしめられていて、まわりから悲鳴が聞こえたりした。
「やっぱり小悪魔系仔猫ちゃん決定だわね、これは」
「でも親しみやすくてよかったぁ。仲良くしてね」
「うん、こちらこそ」
「そういえば昨日希くんにも会ったんだ」
「え?そうんなんだ」
「きゃー抜け駆け!?」
「希くんが歩くん探しに来たんだよ。昨日連れて行かれちゃったでしょ?」
え?あーそういえばー。
「何それ!?知らないわよ」
「俺も」
「竜とリンはいなかったね。大丈夫だったの?」
実が心配そうに俺を見た。
「うん、全然平気ー」
「おーいお前らー、いい加減席につけよー」
ガラっと扉が開いて、教師が入ってきたので、みんなそれぞれの席へ戻っていった。
なんか、へんなクラスだけど、退屈しなさそー。
「俺がこのクラスの担任をうけもつ、福山だ。よろしく」
白いシャツにネクタイ、さわやかそのものって感じの先生が、教卓に立って自己紹介した。
「名前も覚えやすいから当分席は出席番号順な。それと…学級委員を決めなきゃいけないんだが。誰か立候補するやついないかー?」
学級委員ー、めんどくさそう。
俺だけじゃなく、みんなそう思ってるのかどうかはわからないけど、誰も手を上げなかった。
「まぁ、いないわなー。推薦はどうだ?」
先生の言葉に、何故かみんな一斉に俺を見た。
「ん?おお、山田ブラザーズじゃないか。どっちのほうだ?」
先生がにこっと笑って俺の方を見た。
「弟です」
「ふぅん、中学じゃ人気者だったらしいな。決まり。学級委員長は山田歩」
「え!?ちょっと待って、俺無理です。外部生だし、この学園のことよく知らないし…」
冗談じゃないよ、そんなめんどくさいこと、なんで俺が?
なんとかいい訳をして、逃れようとした。
「学園を知るいいチャンスじゃないか」
福山先生はにっこりと、さわやかな笑顔でゴリ押しした…。
「反対する奴いるか?」
…。
クラスの奴らはみんな首を横に振った。
…押しつけんなよー。
「じゃあ、副委員長は…」
その言葉に、みんなが一斉に手を上げた。
な、なに?そんなやりたいなら最初っから委員長やれよー。
「はは。困ったなぁ。人気職じゃないか」
「あの、そんな人気職なら俺、委員長やめるんで…」
ここぞとばかりに、笑顔で先生に申し出た。
「副委員長が人気職なんだよ」
隣で竜がぼそっと呟く。
「えー、みんなずるい~」
結局、副委員長はくじ引きで竜がすることになった。
…不安だなぁ。
竜っていまいち何考えてるのかわかんないんだよな。
「歩」
ざわざわと教室の入り口当たりが騒がしくなって、オレを呼ぶ声がした。
「あ、空也ー」
名前を呼んだオレをみんなが一斉に見た。
「何?」
ぱたぱたと入り口の方に駆け寄ると、空也がにっこり笑って頭を撫でた。
そうどこでも頭撫でるのやめて欲しいな。ガキじゃないんだから。
「歩学級委員長なったんだろ? 今から顔合わせの会議あるって聞かなかった?」
「言ってたかも」
もうすでにオレの頭の中は昼飯のことでいっぱい。
「迎えにきた」
空也がまたにっこりと微笑んだ。
「あれ?なんでオレが学級委員長なったこと知ってるの?」
「さぁ?ほら行くぞ」
「うん。竜ー、行くよー」
なんで知ってんだろう、とか、なんで迎えに来たのかなーとか思ったけど、数秒後にはもう昼飯に何を食べるかということに脳みそは占領されていた。
会議室はすごく広くて、前にはでっかいモニターが設置されていて、各学年各クラスの委員が一同に集まっていた。
空也が一年間の行事をざっと説明した。
「さっそく五月にはクラスの親睦を深めるために、球技大会が催されるので各クラスで各球技に出場する選手を割り当ててくれ。もちろん全員参加だ」
へぇ、球技大会かぁ。
「ねぇ、竜は何出る?」
「バスケ」
「まじ?オレもオレもー」
ノンは多分卓球だろうから、試合で当たることもないだろう。
楽しみだなぁ。こういうイベント大好き。
「…というわけで、今日はこれで解散」
空也の言葉で、みんなばらばらと席を立つと、一人の生徒がオレの方にやってきた。
ん? 見たことあるような。華奢でかわいい感じの顔の子。
「委員長、なったんだ」
「うん、無理やりだけどね。よろしく」
オレはにっこりと笑ってみたけど、そいつはじっと睨んできた。
むー?
「いいご身分だね。学級委員は人気なんだよ。毎年誰がなるか決めるのが大
変なくらい。まぁせいぜい頑張って」
そういうと、そいつはぷいっと向こうを向いて行ってしまった。
「オレなんか悪いこといった? 竜」
「学級委員になると生徒会長に会えるから」
「へぇ、なんか食堂で特別メニューでも出るとか?」
「出ない」
えー、なんだー。飯の話をすると、思い出したように腹がなった。
「あ。寮戻ろう、竜」
「ん」
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