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テニスの女王、リン様
「あ、いたいた」
昼前に、リンが試合をすると聞いたので、テニスコートに竜と一緒に行った。
色白で華奢なリンは白いテニスウェアがよく似合っていた。
「おー。すげー。リンが女の子だったらオレ惚れてる」
「えー、男の子でもいいじゃん。惚れてよ」
「あはは。ありえなーい」
もうーっとくねくねするリンがおかしくって、げらげらと笑った。
そんなリンが、テニスコートに入るとまるで別人のように表情が変わった。
あはは。
やっぱ男だ。
とにかく相手を走らせるところにボールを打つ。
相手が遂に疲れて、リンの足元にひれ伏すような状態になり、リンはラケットを持ってそれを見て満足げに笑った。
そして見事に勝利。
「見たー?あゆー。僕勝ったよ!」
「うん、すげーよ!」
リンがオレに抱きついてくると、竜がひっぺがした。
「なんつーか、リンって、ドS?」
「うん、そうなの。でもあゆなら優しくしてあげるよ?」
げらげらと笑いながら、テニスコートから出ようとした時、またボールがオレめがけて飛んできた。
咄嗟にリンが持っていたラケットで打ち返してくれて、セーフ。
まぁ、テニスコートなんだからテニスボールくらい飛んでくるよな。
周りの心配をよそに、オレは全く気にしていなかった。
それより、午後は空也よりももっと点数を取らないと、とそればっかり考えていた。
「ただいまー。いてて」
結局午後の試合もオレ達のチームが余裕で勝ち、学年トップに輝いた。
試合の他に何かバタバタとしてて、そこら中に打ち身やら擦り傷がいっぱいできた。
テンション上がり過ぎてなんかわからなかったけど。
それにしても、結局空也に得点数が勝つことができなくて、それが本当に悔しかった。
「あゆ、大丈夫?」
「うん、ちょっと暴れ過ぎたかなー」
風呂に入って、リビングでノンとテレビを見ていたら、急にノンがあらたまって話しかけてきた。
「あゆ、ごめんね、僕変なこと言っちゃって」
「へ?何が?」
「空也先輩のこと。近づくななんて…」
「ああ。なんで謝るの?ノンは心配してくれたんじゃん?」
「でも、空也先輩、ほんとにいい人だと思うよ?」
「んー、別に悪い奴じゃないと思うけど、今は敵なの!」
「…でも…」
「もーいいじゃん、この話は。別にノンが言ったから近づかないわけじゃないから」
うん、ほんとに。
だって、今は敵だもん。
空也に絶対参った、って言わせてやる。
だけど、なんでこんな胸がもやもやするんだろう。
…食べ過ぎたかなぁ。
でも空也のとこにはまたおいしいお菓子があるんだろうな。
うぅ。
お菓子、食べたーい。
やっぱり空也に勝ったらお菓子を山ほど、っていうのにしようかな。
「あ、あゆ?よだれが…」
「え?ああ、お菓子のこと考えてた」
ノンの声にはっと我に帰って、へへっと笑う。
「もう、あゆってばー」
ノンがくすくす笑った。そう言えば、ノンもなんか元気ないような気がするなぁ。疲れてるのかな。
準決勝もなんなくクリアして、遂に決勝の朝を迎えた。
昨日は一試合しかなかったにも関わらず、何故か更に傷は増えていた。
ほんっと、オレって落ち着きないってよく言われるもんな。
バスケの決勝戦は午後から。
先にノンの決勝戦があるけど、それまで時間もあるし、なんだかじっとしてられないのでウォーミングアップがてら走ることにした。
今日は絶対負けられない。
勝って空也にお菓子いっぱいもらうんだ。
そういえば、空也ってお菓子いっぱい持ってるわりに食べてるところ見たことないな。
あいつ、何が好きなんだろう…。
って、別にどうでもいいし!そんなこと。
んん?
お菓子のことばかり考えてたら、なんかいい匂いしてきた?
オレってば、鼻利くもんねー。
くんくんといい匂いがする方へと導かれていくと、小さな倉庫みたいな所に辿り着いた。
ここだ!
なんだろう。なんでこんな所から甘い匂いがするんだろう。
もしかして、お菓子の倉庫とか?
それって天国だよな。
くんくんと、倉庫の中に入ると、小さなテーブルの上にちょこんとお皿にのったケーキを発見。
おおお!
何?
あ、メモがある。
『どうぞたべてください』
だって。
いいんだ、食べても!
これなら勝手に食べて悪魔がでてくることもないよな。
オレは上機嫌でケーキに手をのばして、口に運んだ。
うまーい。
あまーい。
もぐもぐと、食べ終わったと、オレはようやく異変に気がついた。
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