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あゆ、ピンチ!
満足して顔を上げると、扉がびっちりと閉じられていた。
…あれ?
オレ、扉閉めたっけ?
不思議に思って扉を開けようとしたけど、びくともしなかった。
なんで!?
壊れたの?
ガンガンと揺すってみたり、蹴ったりしたけど、見た目以上に頑丈に出来ているらしい扉は、やはりびくともせず、オレの前にどっかりと立ちはだかっていた。
周りを見渡すと、上の方に小さな換気用の窓があり、そこから光がさしこみ部屋の中の埃をきらきらと照らしていた。
あそこからは出れそうにないよな。
どうしよう…。
もうすぐノンの決勝戦が始まるってのに!
誰か気付くかとおもってガンガンと扉を叩いてみたけど、ここは学園のはしっこ。今はみんな球技大会の最中だから、誰も通りっこない。
ああ、もう!オレのバカ!
何やってんだよ。
汗もすっかりひいて、ふぅっと息をついて座り込んだ。
あ!携帯!
…くそ、置いてきたし!
空也…。
あれ?なんで空也?
あ、そっか。こないだ助けてもらったからか。
それに、今日は空也のクラスとの決勝戦だ。
このまま出れなかったらどうしよう。悔しいけど、あいつら、大丈夫だよな。
竜もいるし、オレがいなくても大丈夫だ。
散々暴れてみたものの、状況は変わらなかった。そのうえ、すっかり疲れてしまったオレはなんだか心細くなってきた。
いつ出れるんだろう。
白骨化とか、ないよな。
そんなことを考えて、少しゾっとした。
空也ー、ばかー。
お菓子もらうんだから…。
空也の顔が頭に浮かんだ瞬間、ゴオォォンと音がして、扉が破られ、光が差し込んだ。
逆光の中誰かがオレの名前を呼んだ。
あ、あれ?
オレは目をゴシゴシと擦ってその姿が誰なのかよく確認したけど、見間違いではなく、空也だった。
わけもわからず、思いっきり空也が抱き締めてる。
後ろからノンの声がして、部屋から空也に抱きかかえられてでると、珠希や、クラスの奴らがいた。
「あれ?何?どうしたの?みんな」
「どうしたのじゃないよ、こっちが聞きたいよ!」
ノンが涙目でそう言って、状況がようやくつかめた。
あ、みんな助けに来てくれたんだ。
「ノン、試合は?」
「勝ったよ!」
「まじで!?よかったー。見に行けなくてごめん」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「みんな、何してんだ、決勝だろ?」
オレはチームのみんなを見た。
「歩がいないなら試合なんてどうでもいい」
「そうだよ、オレらみんなで出てこそ意味があるんだ」
空也が手を緩めてくれたので、みんなの所へ行った。
「なんだよ、うれしいこと言ってくれんじゃん」
「オレら、球技大会なんてかったるいと思ってたんだよな勝っても負けても卒業できるし。それなら疲れるだけ無駄じゃん?でも練習してて、なんか楽しくなってきて」
チームで、最初一番やる気なさそうだった川口が言った。
「そうそう、応援してても楽しいし。クラスがひとつになった、って感じがしてさ」
クラスのみんなが、オレの頭をわしわしと撫でるもんだから、オレはなんだかすごくうれしくて、涙がでそうになった。
「さて、歩、体調は?」
少し離れた所から見ていた空也が、にこっと笑った。
「いいよ!」
「じゃあ、決勝戦といきますか」
クラスが一致団結したところで、オレ達はわーっと騒ぎながら、決勝戦の行われる第一体育館へと移動した。
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