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「のんのん! あゆあゆ!」
ノックして中に入った瞬間、猛ダッシュで叔父さんが走って来た。
「う、わあおあ」
毎度のことだけど、僕らはいつも交わすタイミングを逃して叔父さんに羽交い締めにされてしまう。
「大丈夫だった? 迷わなかった?」
「うん、うん」
僕らは伯父さんに窒息させられそうになりながらも、なんとか答えた。
ほんとは迷ったし、後でゆっくり聞こうと思うけど、アユは何か危ない目に遭ったみたいだけど、そんなこと言ったら伯父さんは天と地がひっくり返ったみたいな反応をするはずだから。
「伯父さん、苦しい」
アユがそう言うと、やっと伯父さんは僕らから離れた。
「ああごめんごめん、あんまりかわいいからさあ」
「だから、可愛いって何! 僕らもうジュウゴなんだけど!」
アユはほっぺをふくらませて抗議する。
「ああごめんごめん」
質素な暮しがしたかった、っていう両親とは反対で、父さんの兄である伯父さんは、いつも家に来るとお土産やおこずかいをたくさんくれた。
この学校を見た今なら、そんなの伯父さんにとっては大したことなかったんだって分かる。
「ってか、びっくりした。なにこの学園。伯父さんの趣味?」
「ああ、まあね」
伯父さんはなんてことないってふうに笑う。
伯父さんって、こういう趣味だったんだ。
そういえば、日曜日にうちに遊びに来るのにも、わざわざスリーピースのスーツとか着て来てたけど。
「はい、これ制服ね。あとの荷物は寮の部屋に届いてるから。それと、なにか問題が起きたらすぐに僕に言ってね。いつでも力になるから。いざとなったら、理事長の甥だ、って言いふらせばいいし」
叔父さんは、僕らに紙袋を渡すと、そんなことを言った。
部屋の奥で電話が鳴り始める。
「分かった? 絶対だよ?」
「う、うん」
僕らは、顔を見合わせてから頷いた。
「じゃ、ごめん、また遊びに来て」
そう言って伯父さんはもう一度僕らを抱き締めると、急いで電話を取りに行った。
寮に向かう途中、僕は考えていた。
問題って。例えばどういうことなんだろう。それに、理事長の甥だ、なんて言ったらなんか威張ってるみたいだし。
なるべくそういうことはみんなにバレてほしくないな。
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