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「オレわかった!なんでここんとこずっともやもやしてたのか」
久しぶりに四人でテーブルについて、気がついた。
「え?」
みんなオレを見た。
「空也と珠希と一緒にいなかったからだ。なんか避けたりしてたし。だって友達じゃん?おかしいよそれでもやもやしてたんだ」
あー、すっきりした、と笑うと、みんな一瞬呆れたように、オレを見つめた。
んん?
「空也も苦労するよね」
「僕以上に鈍感なのかも」
そう言った二人の距離が、いつもより近い気がした。
そういえばさっきからやたら仲良くふたりで喋ったり笑ったりしてるよな…。
むー。
「なんて顔してんだよ。ほらオレの相手しろ」
「いたた、もう、空也うざい!」
空也がオレの頬をつねった。
「そのうざい相手に負けたのは誰だよ」
「もう!なんでオレこんな奴に負けたんだろ」
「まぁオレに適う奴はいないってことだ」
「いつかそんな余裕な顔できないようにしてやる」
ふんっと、テーブルの上のグラスに手を伸ばしたら、空也の手で阻止された。
「今日は飲むな」
「なんで?」
別に、酒が飲みたいわけじゃなくて、また勢いで間違えて手を伸ばしてしまっただけなんだけど、止められると気になる。
「オレの命令、聞くんだろほら、お子さまは水」
やっぱり空也ってやな奴だー、と思って、ムカつきながら、水を飲み干した。
「ノン、オレ負けたから空也んとこ行ってくる」
食事が終わって、みんな席をたった時、ノンに言った。
するとノンは顔を真っ赤にして慌てた。
「ええ!…空也先輩?」
心配そうに、空也を見たけど、オレは何のことだかわからなかった。
「ノンちゃんは僕にまかせて」
にっこりと珠希が笑って、オレ達は各々の部屋に向かった。
「空也、後で行くから部屋で待ってて。オレ一回部屋戻って着替えたいんだ」
まだ終わってない。
オレは自分の情けなさにウンザリしたんだ。オレがいない間にノンが傷つけられた。
「来たよ」
昼間決勝戦をした体育館。
真っ暗な中に月明かりが照らし、たくさんの足音が近付いてくる。
「本当に君は馬鹿だな」
一番最初に光に照らされて顔が見えたのは、女みたいな顔をした奴。
確か学級委員長の。
「1人で来いって手紙よこしたのはそっちだろ」
「だからって馬鹿正直に1人でくるなんて。これからここにいる大勢に犯されるんだよ?」
ソイツは楽しそうに笑うと、後ろにいる数人の生徒がどんどんオレの方に歩いてきた。
周りはよく見えない。
窓から光が差し込んでる位置に来てやっと見える。だから何人いるのかはっきりはわからないけど、足音からして相当な数だと思う。
さすがにこんなにたくさんは倒せない。ハッキリ言って恐い。でもオレは自分でちゃんと決着を付けたいんだ。
「あれ?恐いの?そうだねぇ…ごめんなさい、もう紫堂先輩にも久慈先輩にも近付きませんって言ってごらん」
「……」
「まぁ、言っても許してあげないし、きっと君はここにはもういられなくなるよ」
絶対言わない。
空也も、珠希も、大事な友達だから。
オレはきっとそいつらを睨んだ。その時、頭上から声が聞こえた。
「ここにいられない?誰が?」
振り向かなくても誰だかわかった。空也の手がオレの肩にそっと手をおいた。
オレの後ろを見て、目の前の奴らが後ずさった。
「ちょっと、ヤベーじゃん、聞いてねーぞ!」
「お前、卑怯だぞ、会長や寮長まで呼ぶなんて!」
「卑怯なのはどっちかな?こんな大勢でこの子をいじめるつもりだったんだろ」
次に声が聞こえたのは、珠希だ。
「オレらの仔猫ちゃん達に手を出すってことは、オレらを敵にまわすってことだぜ?ここにいられなくなるのはどっちだ?」
こういう時って、笑顔ほどこわいのはなんでだろう。
空也と珠希はにっこり笑って目の前の奴らに言った。
「わかったらさっさと戻れ。次はないと思えよ」
空也の言葉に、みんな怯えて体育館を去って行った。
「悪いな、お楽しみのとこ呼び出して」
「いいよ。きっちりオトシマエはつけようと思ってたから」
空也が珠希の肩に手をおいて、笑った。
「でもあれでよかったのかな。もっとボコボコに…」
「はは。さすがにオレでもあんな大人数は相手にできねーよ」
珠希が、本気だ。こえー。
言葉なく立ち尽くすオレに、ノンが話し掛けた。
「あゆ、どうしていつも1人でどうにかしようとするの?危ないじゃない」
「のんちゃん、お説教は空也に任せようよ。無事なんだし」
珠希が微笑んで、ノンはちょっと不服そうな顔をしたけど、二人は先に体育館を後にした。
「…ごめん」
空也の口から、意外な言葉が発せられて、オレは驚いた。
「歩は自分でなんとかしたかったんだろ?余計なことしてごめんな」
ああ、うん。そうだけど…。
「でもさ、予想してたんだ。それに歩が呼び出されてここに来るってのもわかってたし。だけど一気に押さえるタイミングが必要で。ごめんな」
そっか。
「…賭けのさ、ひとつ言うこと聞くってやつ、許してくれないかな。せめて珠希だけでも」
「…へ?」
「歩に不快な思いさせたんなら、オレは…無理でも…」
「なに、いってんの?」
ちょっと待って、それを賭けたって?
「…許せないよ…」
「歩…」
「それで終わり?かっこよすぎるじゃん」
「え?」
「なんか、それって空也だけかっこよすぎて許せない。他のにして」
「え…でも」
「ああ、でも、その前に…」
オレはやっとの思いで空也に手を伸ばし、掴まった。
「腰抜けた…」
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