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覆い被さるように珠希の顔が近付いてくる……。
唇に柔らかな感触。でも、それは今までと明らかに違っていた。
湿った柔らかい舌が僕の唇を刺激した。意味が分かった。だから、僕は口を少しだけ開いて、珠希を受け入れた。それでも、そこから先どうすればいいのか分からない。
珠希の舌が熱いのか冷たいのかすらよく分からなくって、ただ、僕の口の中を別の生き物みたいにゆっくりと動き回る。
少しの間、僕はただ珠希の動きにまかせて、じっとしていた。なんか、すごく気持ちいい。
途中で、鼻で息をする方法を学んで、呼吸が楽になった。
リラックスしてくると、さっき思った感覚よりも、もっとぞくぞくするような気持ちよさが込み上げてきた。
僕は、珠希の動きに合わせて自分の舌をゆっくりと動かしてみた。珠希の舌に、自分のを絡める。
やわらかくって、今まで食べたどんな食べ物とも違う。
珠希の手のひらが、僕の髪をくしゃっと握ったから、それでやり方が合ってるんだと思って安心した。
自分が気持ちいいように、珠希が気持ちよくなれるように、ただ、夢中だった。どんどん頭が真っ白に近付いて行く。
たまき、たまき。
ただ珠希のことだけで、頭がうめ尽くされて行く。
ようやく離れた時、お互いに少し息があがっていた。
珠希と目が合う。少し、潤んでいるみたいに見える。
「うあ……ちょっと、希のこと甘くみてた」
そう言って珠希はごろんと仰向けになると、自分の顔を手のひらで被う。
「へ?」
「すごい上手い。なんかショック」
「へ? うそ」
上手なんてことが、ある訳ない。だって、初めてだったんだもん。
「たまきぃ」
僕は珠希の手を掴んで離して、顔を覗き込んだ。
「僕。初めてだよ。上手だった?」
「初めて?」
「うん。でね、どうやったらいいのかわかんなくって、珠希のまねしてたの……じゃあ、珠希が上手ってことか、ね、そうだよね」
僕が真面目にそう言うと、珠希は突然ぶはっと笑いだした。
こんなに大笑いするとこ、初めて見た。
「やっぱ、最高。希かわいい」
そう言って僕の背中に腕を回すと、自分の方へ引き寄せる。
僕は、ためらうことなく、そこへ自分の体を預けた。
なんか、安心する。
「優秀な生徒で、先生教えがいがあるな」
珠希が真剣な声でそう言うから、今度は僕が爆笑する番だった。
***
「おはよ、希」
柔らかく髪を撫でられる感触で、気持ちよく目が覚めた。
「珠希、おはよ」
目を開くと、珠希がベッドに腰掛けて、僕を見下ろしている。
「これから、寮の仕事があるんだ。僕は少ししたら出るけど、もうちょっと寝てる?」
「ううん、起きる」
「じゃ、一緒に朝ごはん食べよう」
そう言われてダイニングに行ってみると、メープルシロップとバターのたっぷりかかったホットケーキが湯気をたてていた。
「うあ、おいしそう。珠希が作ったの?」
「うん、そう」
「食べていい?」
「うん、いっぱいあるよ。ほんっと、おいしそうに食べてくれるから、見てる方が幸せになる」
「そう? 僕の方が絶対に幸せだと思うな」
そう言って笑うと、珠希はまたあのくしゃくしゃの顔で笑ってくれた。
部屋に戻ると、まだアユは戻っていなかった。
ちゃんと言おう。アユに珠希とつきあい始めたって。
だって、ほんとはもっと前にアユに話したかったのに、結局好きになったことだって言いそびれちゃったし。
ソファに座って考えを巡らせていると、アユが帰って来た。
汗だくで。
「あのさ、僕……珠希と付き合うことになったんだ…あゆにはちゃんと言わなきゃって思って…」
ソファでアユの隣に座って、僕はやっと心を決めてそう告げた。
「へ、へぇ。おお、すげーな。あはは」
でも、僕が想像していたのとは違う答えが返って来た。
へーーそっかーそっかー、とかまだ言いながら、アユは自分の部屋に行ってしまった。
なんか……。
もっと、なにか言ってほしかったな、とか思うのは僕の我がまま?
それとも、やっぱり男と付き合うなんて言ったから、退いちゃったのかな。
そうだ。きっと。
ぼくは少しでも分かってもらいたくて話をしようと、アユの部屋に向かった。ドアが開いてる。
「あああ!○□×※…!!」
突然アユが大声で叫んだ
「アユ!大丈夫!? 」
「ぎゃあ! ノン! 」
僕が声をかけると、アユは飛び上がりそうになった。
やっぱ、変だ。
「あ、いや、なんでもない。あはははは」
またアユは意味もなく笑いだして。
もう……アユ。
どうしたんだろう。
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