5■萌える緑☆恋する季節? SIDE:希(了)

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「希、ランチいこ」  クラスの戸口に珠希が立っていた。  クラスの視線が背中に刺さって痛い。 「順平。みんなに、変な想像しないでって、言っといて」  僕は涙目でそう訴えたけど、順平は笑っただけだった。 「まあ、そのうちみんな飽きるってば」  そう言って僕の背中を叩く。 「希、どうしたの? 疲れた顔して」  珠希が僕のほっぺに触れた瞬間、またクラス中から変なため息が聞こえて来た。 「なんでもないっ、早く行こうっ」 *** 「あはははッッ」  僕が今日一日大変だったことを言うと、空也先輩は大笑いした。  アユは食べるのに夢中。  珠希はかわいそかわいそ、と言って僕の頭を撫でてくれた。  きっと、珠希も空也先輩も、噂されたりすることには慣れっこなんだろう。  きっと、いろいろ大変なこともあったんだろうな。  そういえば、昨日すごく怒ってるみたいだった空也先輩は、今日はなにもなかったみたいにいつも通りだな。 「なに? 希。俺のことじろじろ見て。そんな熱っぽい目で見てっと、珠希に怒られるぞー。珠希は怒ると俺より何倍も恐いんだぞ」  空也先輩にそう言われて、僕は思わず口ごもった。 「え? あ、なんでもないですっ。なんでもないよ? 珠希」  僕が珠希を見ると、珠希は微笑んだ。 「空也、希をからかわないで」 「はいはい、恐い恐い」  そうやって軽口をたたく空也先輩は、いつもと変わらないように見える。  それよりも変なのはアユだ。  そういえば、さっきから何か喋ったっけ?  ずっと、無言で食べてるような……。  ちょうど食事を終えた頃、校内放送で呼び出しがかかった。  珠希と僕は、理事長室に呼ばれた。 「伯父さん? どうしたんだろう。アユも、一緒に行く?」 「ううん、いい。俺まだ食べてる」  アユはサラダを頬張りながら、そう言った。 「そう? じゃあ。行ってくるね。また放課後」 「ああ、伯父さんによろしく言っといて」 「うん。空也先輩、さよなら」 「ああ、また明日なー」  心なしか、空也先輩が嬉しそうに見えた。アユとふたりっきりになれるから? 「のんのんっ、よく来たねっ」  理事長質に来た途端。いつものハグを受けた。  くるぞ、って覚悟したけど、やっぱり避けることはできなかった。 「おじさん、ぐるじい」 「ああ。ごめんごめん。だって、ぜんぜん遊びに来てくれないからさ。思わず放送使っちゃったよ」  伯父さんは机に戻ると、あはは、と笑いながら言う。 「へ? まさか、それで呼んだの?」 「うん、まあ半分はそれだけど。それだけじゃないよ」  伯父さんは急に真面目な顔で、珠希の方を見た。 「あのね、久慈くん。僕、ふたりのこと頼むって言ったよね?」 「はい」  おじさんが真顔でそう言うと、心なしか珠希の顔が引き締まったように見えた。 「いろいろ情報が集まって来るんだけど。紫堂くんとふたりで、力になってくれてるらしいね。ありがとう」 「はい」 「で、それはすごく感謝してるんだけど。率直に。久慈くん、希に手出した?」 「え……お、じさん」 「手を出したというか……。僕は、希くんのことを、好きになりました。だから、これから真剣におつきあいさせてもらいます。それでは、だめですか?」  珠希の声が、高い天井の部屋に響いた。  そのやりとりの間、僕はまるで部外者みたいに突っ立っていることしか出来なかった。  伯父さんが、いつもの伯父さんじゃない。 「のんのん。久慈くんはこう言ってるけど、どう思う?」  突然聞かれて、僕はあたふたした。 「あ、の……。僕も珠希のこと好きだから。嬉しい」  だんだん顔が真っ赤になるのが分かって、うつむきそうになったけど、一生懸命伯父さんの目を見て言った。 「うん。そっか」  伯父さんはにっこり笑った。 「のんのん。いい人みつけたね。久慈くんは、本当にいい子だから。小さい頃から見て来たし。まあ、そうじゃなかったらおじさんどうするか。ね、久慈くん」 「はい、大切にしますから」 「頼んだよ」  そう言って、伯父さんはやっといつものおじさんらしく、微笑んだ。
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