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部屋に戻ると、僕は珠希のそばに座って、寝顔を見ていた。
空也先輩の助言のおかげで、かなり落ち着きを取り戻していた。
「今日泊まるから。ソファで寝るから、しんどくなったら言ってね?」
僕がそう言うと、珠希はきゅっと唇をかんだ。
「いやだ」
「へ? 僕、自分の部屋帰ったほうがいい? その方がゆっくり出来るよね」
「違う。ここで、一緒に寝てほしい。その方が、落ち着くから」
そう言って僕を見上げる……か、かわいい。
「うん、わかった。じゃあそうする」
「よかった」
そう言うと、珠希は微笑んだ。
簡単にOKしたものの、いざ電気を消して一緒に布団に入ると、心臓がばくばくいいだした。ふたりで眠るの初めてじゃないけど。この前はそういうこと全く頭になかった。
「抱き枕」
そう言って微笑んで、珠希は僕をぎゅっと抱き締めた。珠希の熱い体が僕の体に押し付けられて、もう飛び上がりそうだったけど、僕は黙っていた。
「おやすみ、希」
「おやすみ」
珠希はそのまま目を閉じる。こんな変なことばっかり考えてるのは、僕だけなのかもしれない。
もう考えるのをやめようと、目を閉じた。
***
違和感を感じて、目を覚ました。真っ暗な部屋。
そうだ、珠希の部屋にいるんだった……。で、これは、この状況はなんだろう。
さっき、眠った時と同じ体制。僕は珠希に抱き締められてる、んだけど。決定的に違う。
僕のTシャツの後ろから珠希の手が差し入れられていて。熱い手の平が、僕の背中を撫でていた。完全に目が覚めて、僕は珠希を見上げた。でも珠希は目を閉じたままだった。
……寝てる?
でも、ただ背中触ってるだけだよ、うん。
そう自分に言い聞かせて眠ろうとした。でも、もう目が冴えてどうにもならない。
そう思って暗闇で目をぱちぱちしていると、珠希がまた動いて、反対の手が、今度は前に入って来た。珠希の熱い手が、僕の鎖骨をなぞって、思わず身を固くした。そこから胸に、下りて来る。
「たまき、起きて」
きっと、寝ぼけてるんだ。
珠希がうっすらと目を開いて、僕を見た。いつもの珠希とは違う。欲望に満ちた目。
「希」
僕の名前を呼んで、僕を力強く抱き締める。どきどきしすぎて心臓が、壊れそう。
前に差し込まれた手が、僕の胸の尖った部分に触れる。
「んっ」
思ってもみない声が、自分の口から出て行った。
「珠希、やめて、おねが……ふんっぅ」
珠希はぜんぜん止めようとしない。
「希、好きだ」
耳もとに、熱い声が降り注ぐ。その目に、その声に。僕の全身が反応する。
「気持ちいい?」
珠希が僕の胸を弄りながら、聞いてきた。そんなことないって言えなくって。僕はこくんと頷いた。
珠希が僕と体を密着させようと僕の足の間に自分の膝を差し込んでいるから、分かった。
珠希の、堅くなってる。
僕もそうだ。
珠希が僕の髪に手を差し込む。ただそれだけでも、体がびくっとする。もう、どこをどう触られても、声が漏れてしまう。
「希、大好きだよ」
珠希の熱い声で、胸が震える。珠希のこと僕も好きだから。珠希がそうしたいなら、受け入れるよ。
珠希は僕自身よりも僕の体のことを知っているみたいだった。珠希の体重がずっしりとのしかかる。
ふと、耳もとで聞こえる息遣いが、規則正しいことに気がついた。
「珠希?」
聞こえてくるのは、寝息……
目が覚めると、珠希がベッドにいなかった。
「おはよ、希」
シャワーから珠希が出て来た。
「お、はよう。具合は?」
「もう大丈夫。今日一日のんびりすれば、完治だよ」
珠希は、いつも通りだ。
珠希がソファの隣に座ったから、僕は思わず少し離れた。
珠希は不思議そうな顔をする。
「ほんとに、希が来てくれて助かったよ。ありがと」
そう言って珠希が手を延ばして来た。いつもと変わらないのに、僕は思わず首をすくめてしまった。珠希が小さく息を付いたのが聞こえた。
「あのさ。もしかして、僕なにかした?」
えーと、えーと。なんて答えよう。
「やっぱりしたんだ……起きてから見た夢がすごくリアルだったなって思ってて。希、ほんとごめん。熱に浮かされてたとはいえ、勝手なことした」
そうやって謝る珠希は本当に申し訳なさそうだった。
「珠希、いいよ。びっくりしたけど。あの、それに。僕もいいことあったし」
「いいこと?」
「うん。いっぱい好きって言ってもらえた」
そう言って笑うと、珠希はくしゃくしゃの笑顔にして、僕に抱き着いて来た。
「希い、ほんっとごめん。ありがと、大好き」
いつかは、ああいうことになってもいいけど。今はまだ、こういうぎゅって抱き締めてもらう方が好きだな。
5(了)
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