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ペガサスルーム
「はぁ、なんで急に走るの?」
言われた通り、おっきな扉を開けて入った後、やっとアユは止まってくれた。
「だって、あいつ金髪の悪魔と同じ匂いした! なんかノンのこと嫌な目つきで見てた」
???
今僕らに双子の魔法は効かないらしい。双子は以心伝心するっていうけど、今アユがなにを言ってるのか、僕にはさっぱり理解できなかった。
「ま、いいや。さ、行こう」
アユは、ぽかんとしてる僕を呆れ顔で見て、また歩き始めた。
「なにこれ!?」
オートロックのプレートの前で、僕らはまたもや目を疑った。装飾過多な金色のプレートに動物の形のレリーフが彫り込まれたボタンが並んでいる。
「RPG!」
またアユが大声で嬉しい悲鳴を挙げるのを、必死で黙らせて、僕は珠希先輩に聞いたペガサスのボタンを押した。
「珠希はペガサスの部屋に住んでんのか」
アユが笑い混じりの声で言う。
しばらくすると、先輩の声が聞こえてきた。
『はい』
「あの、珠希先輩ですか? 山田です」
『山田、ああ、のんちゃんと歩くんだね。今降ろすよ』
そう言われて僕らは顔を見合わせた。降ろす?
でも、その疑問は一分もしないうちに目の前で開いた。
オートロックの扉だと思っていたのは、エレベーターで、部屋のインターホンから操作できるらしい。
「ほんっと、無駄に金かかってんなー、すげー伯父さん」
アユは面白がるようにそう言って笑った。
1階分だから、あっという間にまたエレベーターが開いた。
それに、アユが言ったとおり、ドアにもおおきなペガサスのレリーフが付いていたから、僕らはすぐに部屋を見つけることが出来た。
「ペガサスルーム!」
「シッ、アユ声が大きい」
そう言ったのと同時に部屋のドアが開いて、珠希先輩があのくしゃくしゃの笑顔で立っていた。
「いらっしゃい。さ、入って」
「おじゃましまー、うあッ、すげっ、なにこの部屋!」
確かに、アユが驚くのも無理はなくって。なんていうか、僕らの部屋だって十分凄かったのに、それが3つくらい入りそうな広さ。それに、天窓とかも付いてるし。
「ペガサスルーム、って感じでしょ? 僕もはじめここに住めって言われた時、びっくりしたからね」
僕が先輩に促されたソファに座っても、まだアユはふらふらと窓から外を見たりしている。
「もうアユ、はやくこっち来て」
「んー」
生返事。
「あ、の、珠希先輩。すみません」
「いいよ。好きなだけ見れば」
珠希先輩は優しく笑ってくれる。
「でもそれはだめ」
「へ?」
「珠希って呼んでって言ったのに。ほら、言ってみて?」
先輩はテーブルを挟んだ反対側から優しい口調でそう言ったけど、僕がそう言わないと許してくれなさそうな雰囲気で……。
「……たまき」
「上出来」
そう言って笑うと、また頭をくしゃっと撫でられた。
「あーーもう腹減ったよう、珠希、寮の説明って時間かかる?」
我がままなアユは、いきなり先輩にそんなことを言った。
「もうッアユッ」
きっと、先輩わざわざ僕らのために時間空けてくれてたのに。
「いいよ、のんちゃん。じゃあさ、一緒に御飯食べに降りようか。食べながら説明するよ」
「いいんですか?」
「それ最高!」
僕らの声が重なった。
珠希先輩はくしゃくしゃの笑顔をもっとくしゃくしゃにして、声を挙げて笑った。
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