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生徒会副会長・春日有哉
「見たよー! 歩、何あれ。否定してたけどやっぱり付き合ってんじゃん」
教室に戻ると、実がオレの席に駆けつけた。
「え? 別に仲いいけどほんとに付き合ってないよ」
「そうなの? だって希くんは付き合ってるんでしょ、久慈先輩と」
「そうらしいね」
そのことについては、オレもちゃんと聞いてないからなぁ。
「でもさ、紫堂先輩のああいう顔、見たことないしそうやってあゆとじゃれるのとか、今までだってあり得ないことだもんねー」
そこへ、教室に戻ってきたリンが話に加わる。
「ああいう顔? 」
「うん、紫堂先輩はさ、生徒会長としての笑顔とか、そういうのは絶やさない人だけど、普段すごくクールだし。あんなに心から優しそうに笑う人だとは思ってなかった。いつも完璧オーラだしてて近より難いしね」
そうなんだ。空也は優しいぞ。それに結構ガキなとこも多いと思うし。負けず嫌いだし。
そんな近寄りがたいという空也こそ、オレには想像できなかった。
「でもねー…微妙かなー。紫堂先輩は…」
「え? どういうこと? 」
「いや、んー…遊んでるって言うと悪い言い方かもしれないけど…まぁ同意の上だとは思うんだけどね、つまみ食いっていうか…」
「ああ…」
そういや、そんなこと聞いたかも。
オレのこと、そういう目で見てるとは思わないけど、なんか、そういう人たちと同じように見られてるとかはいやだな。
…ん? それって、オレは特別に見てくれってこと?
いや、だって友達だし。
「もう、そういうことは言わないの、リンはー」
「だってさ、歩が心配なんだもん」
「でも、歩の気持ちはどうなの? 」
実に話を振られて、はっとした。
オレの気持ち?
「えー…どうって。認めて欲しいと思う」
「認める? 」
「うん、なんて言うか…色んな意味で。上辺だけとかは嫌だな」
「…へぇ、歩って案外ちゃんとしてるんだ」
「案外ってなんだよ、失礼なやつ! 」
オレはふざけて怒ったふりをして実に掴みかかるようなそぶりを見せた。
つまみ食いかぁ。やだなぁ。そういうの、別にオレが止める権利もないのに気にしてしまうのが。
別にそういうことは空也の好きにすればいいんだしさ。
もやもやしたまま、放課後になり、オレは昼休みに空也が言っていたことを思い出して生徒会室に向かった。
そういや、初めてだ、生徒会室。
オレは目の前にあるやたら豪華な装飾が施された扉をノックした。
「はい、どうぞ」
扉をあけてくれたのは、清潔感のある男前だった。
空也ほどの派手さはないけど、すっとした感じの。
「こんにちは。ここに来たってことは、F組だよね。噂の山田兄弟の弟、歩くんだ。僕、副会長の春日有哉(かすが ゆうや)です」
「あ、どうも。こんにちは。山田歩です」
「ちょっと待ってね、空也呼ぶから」
そう言って、春日先輩は生徒会室にある階段を昇っていった。
「おお、歩」
階段をおりてきたのは、多分みんなが言う生徒会長スマイルの空也だった。
「悪いな、迎えに行けなくて。ちょっと書類が山積みだったんで」
「あ、うん、別に一人でこれるから大丈夫」
「歩くん、コーヒーと紅茶、どっちがいい? 空也はいつものでいいよね」
「あ、紅茶で」
珠希の時は何も思わなかったのに、春日先輩が空也のことを、当たり前だけどよく知っているということが何かイヤだった。
何がイヤなんだろう。わからないけど、なんかイヤ。
別に春日先輩は何も悪くないのに。
「空也も中等部の頃は歩くんみたいにかわいかったのにね。今は可愛さなんて微塵もないけど」
春日先輩がくすくすと笑った。
中等部の空也…。みんな知ってるんだよな、初等部も。ずっと一緒なんだから。
そう思うと、今の空也しか知らない自分がおもしろくなかった。
「あの、ごちそうさまでした。オレ兄が待ってるんで、部屋戻ります」
ちゃんとお礼を言って、早くここから逃げ出そうとした。
「有哉、悪いな。オレも今日は上がらせてもらうよ」
空也は春日先輩にそう言うと、オレと一緒に部屋を出た。
「仕事いっぱいなんじゃないの? 」
なんかオレ、性格悪いよな。最近…。そんな自分がイヤで、空也がそんなオレといて欲しくないと思って、わざとイヤそうに言ってみた。
「あのさ、歩、もしかして…」
「何?」
「嫉妬してる? 有哉に」
「え? 」
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