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実家まで急いで帰った僕は父の眠る病院へ向かった。父の顔は隠されており、母はただただ泣いていた。僕は父の顔に被さっている布を取ろうとしたが留まった。どうしても顔を見る気になれなかった。
お通夜と葬式は身内だけで簡単に済ませた。
通夜の夜、僕は父の顔をまともに見ることが出来なかった。これではダメだと思い、葬式の日、棺に花を添える時、みんなが別れを済ませたあと僕は父の顔を覗いた。あの厳しかった父とは思えないような優しい顔をしていた。
僕の目から涙がこぼれ落ちた。久しぶりに直視した父の顔は優しく、死人とは思えないほど暖かいものだった。いつも叱られていたが子供心に自分が悪いと理解していた。しかしいつの間にか父の顔をまともに見れなくなっていた。失って気づいた父の優しさ、いつも叱っていたのは僕のため。
「ごめんなさいお父さん」思わず言葉が出た。
すると何処からか声が聞こえた。
「いいんだ、わかれば」父の声だった。いつも叱られた後に聞く優しい声だった。
僕はその言葉の後の父の顔を思い出した。
小さい頃、僕を叱ったあと父は笑顔で僕を見つめていた。その笑顔を思い出すとさらに涙が零れた。
僕は最後の言葉がごめんなさいは嫌だと思い父の顔を見て言った。
「ありがとうお父さん」
僕は棺のふたを閉じた。
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