(二)

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「そんなことするわけないだろ。べつに恋人同士ってわけじゃないんだから」  実際デート中でも、手をつなぐどころか、小指同士を触れ合わせたことすらない。好意は重々感じているものの、あくまで部活の先輩後輩という立場を踏み越えたことはないし、踏み越えるような雰囲気になったこともない。そうしないことが、お互い暗黙のルールになってしまっている気がする。……ひじょ~に残念だが。 「ま~だそんなことのたまってる。待ってるんだぞ、彼女は」 「なんでそんなことわかるんだよ?」 「オナゴとはそんなもんよ」  大仰に腕を組んだ糊竹は、しかつめらしい表情で続けた。 「相手は女子高生ぞよ。男女関係に興味津々なお年頃ですぞよ。おちおちしてると、いずれ自分の優柔不断さと小心さを、心底後悔することになりますぞよ」 「どういう意味だよ?」 「とられちゃうぞっていうの、ほかの男に」 「大きなお世話だ!」 「友人として忠告してやってんだ。あれだけの可愛い子、まわりの男が今までほっておいたのが奇跡なぐらいだ。そしておまえが好かれているのはもっと奇跡だ!」  ぼくは無視して歩きだした。ドアの前に、もう益代たちの姿はない。 「いいのか? とられちゃっても」  ついてくる。 「益代ちゃんはぼくの所有物じゃないし恋人でもない。そういう状況になったらなったで、彼女の思うようにすればいいじゃないか」 「いったな? いいましたな? じゃあ俺という友人がとっちゃっても、恨みませんな?」  友人だと思ったことなんて一度もない男を気にしないでドアに手をかけると、 「伝達事項は重要度の高いものからって、何度もいったじゃない!」  という怒声を背中に聞いた。  未だ閲覧テーブルに着いている浦和が、千祭に睨みつけられ小さくなっているのを、ふり向いた目は捉えた。  にぎやかだったまわりも一瞬にして静かになり、そんなふたりを注視している。 「またやられてるよ」  糊竹が愉快そうにいった。  たしかに今年度に入ってから、毎週お決まりの光景。 「千祭もほうも、そうとうムカついてんだろうな~、あんなひ弱な男にトップとられて」 「……まあな」 「でもよ、意外と浦和、心の底では喜んでるのかもしれないぜ」 「ん?」 「だって、きつめの美形にいじめられるのって、結構気持ちよさそうじゃない?」  目尻をさげた横顔がいった。
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