(三)

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 ようやく腕は解放された。 「あんたがいっつもじろじろ見つめてるものがないでしょ。なぜだかわかる? それはここにいるから」 「へ……」 「同一人物は二か所に存在はしない」  偉そうに腕を組んでいった彼女の胸は、一層盛りあがった。 「同一人物って……あそこにあったの、キツネですよ」 「キツネっていうんじゃないわよ! 白狐っていいなさい!」 「……ビャッコ?」 「知らないの? 白い狐と書いて白狐。狐って文字は入ってるけど、コンコンいって雪の上跳ねまわってるやつらとはまったくの別物。なんてったって、こっちは神使なんだから」 「……シンシ?」 「神使、知らないの? 神さまの使いでしょ」  バカにしたようにいうと、 「神使はね、だいたいがその神さまに関係する動物の姿になってんのよ。だから稲荷神の神使は狐なの」 「はあ……」 「性懲りもなく何度もくるから、仕方なく出てきてやったのよ。必死そうで、なおかつ、ちゃんとお供えやお賽銭持ってきた祈願者の願い事は、できる限り叶えてやろう、って規定になってるから」  うっとうしそうな表情のまま、彼女は続けた。 「本来、そんなことは神さまの仕事なんだけど、全国の祈願にいちいち対処してる暇なんて神さまにはないから、あたしたちに業務代行権が与えられてるの。だから立場は神さま同等なのよ」 「はあ……」 「納得したんなら、さっさと願い事いいなさい」 「納得?」 「したんでしょ? あたしが神使だってわかったでしょ?」 「はあ……いや、ちょっと待ってください」  納得なんてするわけがない。そんなバカな話が科学万能のこの現代にあるはずがない。  キツネの石像だって、なにかの用事で一旦取り外しただけなのだろう。そんなに大きくはないものだ。簡単に移動できる。それに―――。 「まだなんかあんの?」  切れ長の目が細められた。 「あの……なくなったキツネが―――」 「白狐っていえ!」 「あの、白狐が、あなた……ということなんですよね?」 「そう説明したでしょ! とろい男ね~」 「白狐は、キツネの姿してるんですよね?」 「だからそういった!」 「じゃあなぜ、人間でいるんでしょう、おたく」 「……」  さあ、なんていい返すんだ?  「これだから疲れるわ、バカ相手にすると」  彼女は上空を仰ぎながら独りごつと、
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