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「白狐のまま出てきて人間の言葉しゃべったら、あんたびっくりして卒倒しかねないでしょ」
スルッと答えた。
なにそれ!? そんな解答じゃ、到底納得不可!
「あ、そうですか。わかりました。でも、願い事のほうは結構ですので。
それではぼく、帰って宿題しますから、これで失礼します」
自称白狐とは目を合わさず、鳥居をくぐった。
こんな変なのが現れるようになっちゃ、もうここにはこられないか……。
無念な気持ちでもとの椅子に着いた途端、
「さてはまだ信じてないわね!」
と、頭上から声。
ビクッとなって見あげると、険しい顔が見おろしており、真っ白なボディコンはぼくの体側にピッタリ貼りつくようにあった。
しかし無視して帰り支度を始めた。
相当なスピードで彼女はついてきたようだ。しかもなんの気配も感じさせず。
そういえば、さっき彼女がこのテーブルに現れたときも、歩いてきた気配や椅子に腰かけた音などにはちっとも気づかなかった……ような気がする。
「は~、そういう態度とるの~? あっそ~、そ~ですか~。では……」
嫌味ったらしい独り言のあと、
「ウ~ワウッ!」
いきなり犬の吠え声を聞いた。
すると、
「アツッ!」
閉じようとしていたPCから猛烈な熱が伝わり、思わず手を離した。
小さな高性能機器は、キーボードの隙間や背面からたちまち煙を立ちのぼらせ、“シュー”という奇っ怪な音まで出し始めた。
「わぁ~!」
なにがどうなったのっ!?
「再起不能になるわよ、このままだと」
PCとは逆に、冷たい声。
「そんなの困る~っ!」
「神使の好意を無にすると、どんな怖ろしい目に遭うか、わかったかしら?」
「えっ……じゃあこれ!?」
ふり向くと、そこには怪しげな微笑があった。
まさかそんなわけない! と思いながらも、ほかの要因はちっとも考えつかない。今の今まで、なんの変調も見せずテーブルにあったのだ。誰かが触った形跡もない。
「わかりました! わかりましたから、とめてください!」
だからそう叫ぶほかなかった。
「ウ~、ワウッワウッ!」
再び発せられた吠え声とともに、彼女の赤いスカーフが風もないのに大きく揺れた。
煙と異音は、突如やんだ。そしてPCは何事もなかったかのように、もとのまっ暗な省電力モード画面を見せた。
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