【第1章】 (一)

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 と、訝しんでしまうような自負から、いつしか小説オンリーとの方針が決められたといわれている。    昔から物語を読むことはもとより、つくることが好きで、おまけに好きな作家のひとりがこの文芸部出身ということを知っていたぼくは、一も二もなく入部した。  しかし、いくら文芸部員になったからといって、誰しもそう簡単に、次から次へと物語など紡ぎだせるわけはない。いつしか部はそれに気づいたらしく、現在は、連続二回まで提出をパスしてもよいという猶予が設けられている。ただ三回目の猶予は、いかなるわけがあろうとも、ない。「ない」とは当然、部からの除名を意味する。  その三回目を、あと八日ほどでぼくは迎えようとしている。  三年生になり、ここで強制退部はどうしても避けたい。  なぜなら、クラブ活動を中途で終えるという経歴は、大学推薦においていい影響をもたらさないと聞くから。  しかも文学部文芸学科志望者において、文芸部の強制退部は致命的になるというもっぱらの噂だ。ただ逆にいうと、光った活動成績を残せば、その希望には文字通り光明が差す、ということになるらしい。  また、入部してから、誰ひとり連続三回のパスを行使した者はおらず、過去にもそのような先輩諸氏は存在しなかったという事実も、ぼくにあせりをもたらせている。  ここで自分がその快挙を成し遂げたとしたら、志望学部推薦の夢が崩れるだけではなく、創部初の強制退部者として名を残すことになる。もちろんその名は「汚名」だ。  勢いよくシフトキーを押し、省電力モードになっていた画面に明りをとり戻す。が……。  一年のときは年四回、すべてこなしたな~……。  パスするようになったのは二年からか~……。  あれだけ書くの、楽しかったのにな~……。  茫々とする頭に、カラスの鳴き声が聞こえてきて、そして離れていった。  薄っすらと紅を差していた空は、その赤をずいぶんと濃くしている。  PCをバックパックにしまって椅子を立った。大きく伸びをしてみても、躰の重みは緩和しない。  約二時間の貴重な時間と、PCバッテリーの浪費―――。  帰途につく前に、いつもの寄り道をすることにする。といっても、今いる場所から垣根一つ隔てたすぐお隣だが。  三方を植木で隙間なく囲まれたその空間は、通路に面して開けた一辺に小さな鳥居を構える。
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