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(二)
(二)
「では時間になりましたので、始めたいと思います」
張りのある声に、ざわめきが収まる。
いくら伝統があるとはいえ、週一回のみの会合しかない文芸部には、専用の部室は与えられていない。そのかわり、一般生徒の利用が不可となる土曜日放課後の図書室が、活動場所として認められていた。
部員たちの視線が自分に集まったことを確認すると、千祭は隣に一瞥を送り、腰をおろした。
「あ……はい」
閲覧テーブルに手をつきながら、弱々しく立ちあがった浦和は、同じ三年の千祭より頭一つぶん小さい。
「あ……みなさん……お疲れさまです」
と、声の張りも小さい。
「聞こえません!」
すかさず飛んだ隣からの叱咤に、そこここから失笑が洩れた。
浦和たちが着いている閲覧テーブルに向かって、一五人ほどの部員たちはランダムに椅子を置いて座っている。
「あ、す、すいません……。あ、あの、さっそく始めたいと思います」
「それ、私がいいました!」
続けざまの叱責に、場の失笑は遠慮をなくした。
パンパンと手を叩きながら、やはりテーブルの一角に着いていた顧問の瀬和先生が立ちあがった。
大卒後、本校に奉職して四年目という彼女は、まだ二〇代の半ばだけあって、身にまとわせている紺のパンツスーツが崩れていない体形に似合っている。
「そうよ浦和くん。他人の話はちゃんと聞いておきなさい。そして話すときは、しっかりと声を出して。いつもいってるでしょ。みんなに物事を発表するんだから、聞いてもらおうっていう気持ちを持ってなきゃだめよ。部長になって、もう二か月以上経ってるんだから。ね」
まるで小学一年生にいうようなことを、大まじめな口調で諭された浦和は、顔を赤らめこくんと頷いた。
「じゃあ、続けて」
そういって長い髪をかきあげた先生の微笑には、高校時代、二桁を数えるラブレターや告白を受けたという噂を、充分信じさせる魅力があった。そしてその華のような三年間をすごしたのが本校であり、この文芸部こそ、彼女が青春を謳歌したクラブでもある。
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