(二)

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 といいたいところだが、 「いや……結構、むずかしいかも……。これ逃すと、三回目になっちゃうし……」 「そうですか……。そうですよね……」 「だから今回は……ゴメン、ね」 「いえ、いいんです!」  ふりあげた彼女の顔には、無理してつくろった微笑み。  ああ~、ぼくはなんというもったいないことを~!   でも、提出日まで一分一秒無駄にできないのは本当だ。 「あの……益代ちゃんは、どうなの? 進捗状況」  このまま話を終わらせてしまっては悪い気がして、尋ねた。 「一応書きあげたんですけど、まだあんまり読み返してないので、この一週間は推敲時間にあてようと思ってます」 「あ……そう」  彼女が余裕を持っていることなどわかっていた。余裕がなければ誘ってなどこないだろうし、「あせって書いてます!」というような台詞も、その小さく可愛らしい口から聞いたことはない。したがってこちらとは違い、提出をパスしたことはない。しかも彼女の作品は毎回、『四子玉草子』のトップ付近に載る。 「じゃあ、失礼します」  彼女はふり向き、ゆっくりドアに向かった。  その小さな背中を見ながら、  後ろからあれを抱き締めたら、どんな感じがするんだろ~……。  なんて不埒なことを想像してしまったその刹那、急にその背中が半回転したので、 「わっ、ごめんなさい! 冗談です!」  と、思わず口走りそうになった。 「あの~……」  小走りで戻ってきた彼女は、小顔をうつむかせたままいった。 「な……なんでしょう?」 「あの~……もしで結構なんですけど、もし、金曜日までに作品があがるようで、ご都合がつくようになりましたら……メールもらえますか? わたし、その日までイベントいかずに待ってますから」 「……はい」  というつもりの口が、うまく動かず、 「……へい」  それから二度目の「失礼します」を告げ、今度は最後まで顔をあげず踵を返した彼女の後ろ姿を、喜びと焦燥が入りまじった頭で見送っていると、 「しかしふしぎだ~」  いきなり耳元で、亡霊のような低音。 「なにがだよ?」  亡霊から離れて、嫌悪感まるだしの顔を向けてやった。 「彼女がおまえみたいな男に好意を寄せるなんてことが、ふしぎだ~」  亡霊の視線の先には、ドアの前で一年生たちに囲まれている益代がいる。
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