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「四子玉学園七不思議の中に入ってもちっとも不思議ではないほど、ふしぎだ~」
「そんなんじゃないだろ」
「そんなんじゃないですと? おたく、未だ本気でそう思ってるんでござんすかぁ~!?」
奇妙に歪ませた顔を、糊竹はぼくに寄せた。
もちろん、本気で思っちゃいない。
「彼女がちょっとした可愛い子ってレベルなら、これほど憤慨しないんだよ。しかしながら、艶やかなナチュラルショートボブヘアーと、その下に覗く小さく整った顔は、ちょっとどころを軽くふりきっちゃってるんだよな~。しかも、ほどよい大きさの胸の膨らみと、いくぶん健康的すぎる感もあるおみ足が、俺のピュアな心に強大な引力を働かせちまって、どうしょもなくするのよ」
だまれスケベ!
「そんなまるで動く美少女フィギアみたいな子が、なんでおまえなんかにな~。顔がいいわけでも、才能があるわけでも、金持ちなわけでもない、単なる優柔不断な小心者のヒョロ男なのにな~」
「だから好意なんて気持ちじゃないんだろ」
「好意がなくて、しょっちゅうデートに誘われますか!?」
―――たしかに。
文学関係の催しがあったり、話題になった小説が映画化されたりすると、社交的とはとてもいえないこのぼくに、彼女は声をかけてくれる。そしてそんなイベント事がなくても、昼食やお茶などによく誘われる。ほとんどが土曜日の会合のあと、ぼくだけ。
つき合っている女子などおらず、友人すら少ないぼくは、当然彼女のお誘いをいつもありがたくお受けする。……今回のような切羽詰まった事情がない限り。
ただ糊竹の言葉にもあるように、かっこよくて才能があって、金持ちとはお世辞にもいえないこのぼくに、なぜ彼女が興味を示すのか皆目見当がつかなかった。それゆえ、ふたりでいるときの屈託のない彼女の笑顔を見て、
自分は今、夢の中の住人になっているのでは……?
と、肉づきの悪い頬をつねったことは二度三度ではない。もちろん毎回痛かった。
「で、接吻はもう、お済みでござりんすか?」
向けていた顔を、糊竹は突如緩ませた。
「なにいやらしいこといってんだ!」
「接吻のどこがいやらしいんでござりんす?」
「おまえがいうと、なんでもいやらしく聞こえるんだよ!」
「失敬な! で、どこまでおいきなさったんで?」
「……」
「まさか手もつないでないなんていうんじゃなかろうな?」
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