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 揺れる波を足下で感じながら、サルヴァは船内に積まれた荷物を確認する。出航前に行う、積荷の最終確認だ。 「――よし、いいな」  過不足なく揃っている。手元の書類の下部に『サルヴァ・ディジット』と署名し甲板へ上がって、紺碧色の髪を潮風に揺らす。心地好い風に目を細めていると、船員の一人から声がかかった。 「サルヴァ、副代表がお呼びだぜー」 「兄さんが? なんだろ」 「『あ、やべ』って独り言は聞いた」 「……嫌な予感しかしない」  すぐ下にいる、と教えてくれた船員に礼を返して船を下りたサルヴァは、視界に入った兄のもとへ駆け寄った。 「兄さん」  サルヴァの呼びかけに、長めの襟足を一つに結んだ青年が振り向く。 「おう、来たな」 「……聞きたくないけど、なんかあった?」  うすうす当たりをつけながら問うと、兄がにこりと笑みを作った。周りの船員が揃って「ひっ」と悲鳴を上げるのに混ざって、サルヴァも口元を引きつらせる。 「追加漏れ一件。ねじ込め」 「……断る」 「拒否権はねぇ」  サルヴァは、ぐぬ、と息をつめてから噛み付いた。 「無理だって! 最短でも二日はかかる!」  船積みには二種類の証明書が必要で、その発行元は関所なのだ。 「頼み込んでどうにかしろ。命令。時間ねぇからさっさと行ってこい」 「…………兄さんのそういうところは尊敬できない……」  しっしっ、と犬猫を追い払うように促され、サルヴァは深いため息をついてから思考を切り替えた。証明書のうち一つは、寄港先の小売商に送らなければならないのだ。 「飛脚船、つかまるか……?」  必要な手続きを頭で組み立てながら踵を返したサルヴァの背に、複数の船員の声が飛ぶ。 「すっかり事務仕事が板についたなァ!」 「はやくそっちの仕事完璧にして戻ってこいよー。お前の船で働くの楽しみにしてんだ」  以前は兄の補助として海に出ていたが、当然、それでは一端の商人とは言えない。商家の人間として船員を率いるには、一から十まで仕事を網羅する必要があるのだ。  サルヴァは振り返って、にっと笑った。 「まだまだ修行の身だよ!」  日々が楽しい。海を渡り、それがあらゆるものを広げる道へつながると知っているから。 「……とは言っても、こういう無茶ぶりは全く楽しくない……」  なんとか証明書を手に入れて滑り込みで無事に出航を見届けたサルヴァは、げっそりとぼやいた。拝み倒してなんとか対応してもらえたものの、こんな無茶な手続きは、しばらく遠慮したい。 「ふー……久しぶりに行くかぁ」  まっすぐ昼休憩に入っていい、と先輩事務員から労いのこもった言葉をもらっている。  サルヴァは迷いない足取りで、ある場所へ歩を進めた。
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