春くるまでさよなら

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いつも見てきた、ふざけた笑顔の表情だったから本当のところは蒼には分からなかった。 でも、確かにドーナツは蒼の目を探るように見てこう呟いたのだった。 ほかに居なかったもの、あんたを超える奴が。 一気に酔いが覚めたような気がした。 もっとも、未成年のその脳味噌および思考回路には、酔いなど一切含まれていなかったのだが。 その後の彼女は、さっきのセンチメンタルな顔など道端に置いてきましたというようなテンションで、新生活で楽しみにしていることや大学生活での戦略を事細かに練っていたが、僕の方は、ああ、うん、を繰り返すばかりであった。 ───僕にもチャンスはあったのかもしれないな。とか思いながら。 でもチャンスはチャンスのままで終わったんだ。 明日には僕にとってもドーナツにとっても、この場所は過去のものとなる。 結局のところ、長い間一緒にいるなんてことはまったく関係なくて、タイミングを掴めるかどうかが問題なのだ。 そして僕たちのタイミングは、既に通り過ぎていたのだろう。 たぶん、きっと。 僕たちがもたついている間に。しれっと。 ドーナツを、彼女の家の前に送り届けてから、「暇が出来たら連絡するわ」「分かった」と別に惜しみのない言葉を交わし、彼女に手を振られているのを感じながら、僕は中学からずっと変えていない古くなった自転車に足を掛けた。 無数の星が降る、ド田舎の夜の話だ。
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