小さな願いを雨雲に

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しつこい雨と、重さを持った空気がまとわりつく梅雨。カバンを傘代わりにして走る。  いつもシャッターが下りているタバコ屋の軒下で雨宿り。 「くっそ、急に強くなったな」  カバンからタオルを取り出し一通り拭いて、首にかける。 「まいったな」  憎々しく雨雲を睨みつけていると、遠くから女の子が走ってきた。  少しお辞儀をしてタバコ屋の前で止まる。  俺も小さくお辞儀をして、一歩横へずれる。こういうのは助け合い。  うちの高校の近くにある女子高の制服。そのスカートの端を手で絞っている。そうとうずぶ濡れだ。  髪から滴る雫が、やけに目に付くのはしかたのないことだ。  女の子と二人きりで雨宿り、少し気まずい空気が流れる。 「あの、タオル、使いますか?」  思わず声をかけてしまった。軒下の空気と、肌に張り付く制服、濡れた髪に吸い寄せられたことは否めない。  彼女は少し訝しげに俺を見た後で、首のタオルを見る。 「あ、いや、もう一枚あるんですよ」  必死に説明する俺に彼女は少し笑い「ありがとう」と言った。 「駅まで行くんですか?」  髪を拭く彼女に問う。 「そうです、少し距離があってどうしようかなって」 「あー、分かります、微妙な距離ですよね」 「そうそう、歩くと少し遠いんですよね」  話してみると、先ほどまでの気まずさはどこへやら。  正直この時間が楽しい。  もう少しだけ、止んでほしくない。  そう思っても、人生そう上手くはいかない。雨は次第に勢いを弱める。  俺は一回だけため息をついて、幸せな軒下を出た。 「俺、もう行きます。そのタオルあげますから」    次の日も雨。でも今日は傘を持ってきている。  帰り道にまたタバコ屋の軒下を覘く。いるはずもないけど、なんとなく。  けど、予想は外れた。軒下に記憶に新しい女の子の姿があった。濡れてはいないが、その代わりに畳んだ傘が立てかけてある。彼女は俺に気づいて少し恥ずかしそうに笑う。俺も笑顔を返す。  雨宿り、していこうかな。  傘を畳んで小さなお辞儀をする。彼女も小さなお辞儀を返して、一歩横にずれた。  今日は、簡単に止んでくれるなよ。雨雲に願いを込めて、俺は軒下に入った。
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