追憶

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追憶

「お父さんの様になりなさい」 それが母の口癖だった。 俺が何か悪いことをした時、母の叱咤の最後には必ずその言葉が付いて回った。 逆に何か褒められる様な事があれば、それを讃えたのちに「お父さんに似たのね」と言った。 何をしても 「お父さんならしなかった」 「お父さんのようだ」 と、家には存在しない父と比較されることに幼少期の俺は強い反発を覚えた。だから俺は父を引き合いに出されると、酷く怒ることもざらにあった。 その度に、母は言った。 「ごめんね」 と 「貴方はお父さんの子だから、きっと良い子になるわ」 を。 俺はその時自分が褒められているのだと勘違いをしていたが、成長して相手の言いたいことや言葉の裏を読めるようになってから、ようやくその言葉の意味に気づいたのだ。 だから、中学生くらいの時から母に「俺自身」を評価してもらうことは諦めた。
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