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母は元々身体が弱かった…気がする。
そんな言い方になるのは、判断材料が俺の記憶しか無いからだ。
記憶の中の母はいつも痩せており、どこか儚げのある人だった。彼女が走ったり、大声を出したりしているのは見た覚えがない。
───いや、一度あった。
あれは確か、やはり俺が小さい頃だった。
「俺にお父さんはいるの?」
他の家庭にあるものが、自分の家には無い。それを認知した子供が親にそのことを尋ねるのは当然の帰結とも言える。
「勿論よ」
母は穏やかに言った。
「どこにいるの?」
「……どこにいるのかしらねぇ」
「俺のことが嫌いだから、居なくなっちゃったの?」
「それは違うわ、お父さんは貴方を愛してる」
「じゃあなんでお父さんはいないの?俺見たことないよ?本当はお父さんなんて──」
「いい加減にしなさい!!」
その時の母は、いつもの優しい母ではなかった。
どうしてそんな質問ばかりするの、どうしてお母さんを困らせるの──。
泣き喚く母を前に、子供の俺は何も言えなかった。
そして──。
「……お父さんはお母さんを泣かせたりしなかったわ」
結局、最後はそこに辿り着くのである。
それ以後、母へ父について深く探りを入れることはなかった。
これ以上踏み込むと、良くない。俺が幼くして至った一つの真理だった。
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