追憶

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「お父さんの様になりなさい」 その言葉を背に受け続けた俺は、ただ直向きに努力をする人間となっていた。 中学生になってもやはり父と比較されることは不本意であったし、やめて欲しかったが、女手一つで育てられているということに感謝すべきであることはわかっていた。 だから、母に恩を返すならそれこそ「父の様になる」ことを目標にすべきだと考えた。 学校のテストでは良い点を取り、部活動では個人が重視される陸上部に所属して、良い成績を残した。 母はいつも言った。 「貴方はやっぱりお父さんの子だわ。私はこんなに素晴らしい子を持って鼻が高いわ」 やはり父を引き合いに出されるが、母が喜ぶならそれでもいいか、と思った。 こうして俺は不良や引きこもりになることなく、母に従順に生き、順調に「父」になっていったのである。
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