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高校生の頃だった。名前を出せば良い意味でそれなりに驚かれる大学の入試模試で、A判定を貰ったことを母に伝えた。
「流石よ、貴方はお父さんに似て本当に良くできた子だわ」
いつも通りの母の言葉を聞いた時、今まで自分の中に押し込め、隠していたある気持ちが突然ふつと湧き出た。
「俺の父はどれくらい偉大だったんだろう」
いつも母は俺が賞を獲得したり、何か好成績を収めると決まって「お父さんのよう」と口にしたが、果たしてそのお父さんは一体どれほどの才媛だったのだろうか。
俺と同じくらいの才能があったのだろうか?
しかし、大学受験を控えた今でも母は俺に「お父さんの様になりなさい」と言う。
言い換えれば、まだ俺はお父さんの域にまで到達していない、ということだ。
その事実は少なからず俺を落胆させた。
これだけ頑張っても、未だ見たこともない父親に負けている。それは俺の心に重くのしかかり──押し潰した。
17年間……いや、中学生くらいに封印したからもっと短い、3〜4年か。父親に対する疑念が、どろりと胸中に溢れ出た。
父は一体、どこの大学に行ったのだろうか?いや、どこの高校に行き、どんな部活でどんな成績を残したのか?顔は端正なのか?身長は高いのか?
俺はそれらが気になって、居ても立っても居られなくなった。
家の中に、母の影を探し回る。
なぁ、お母さん。俺は父に劣っているのかい?それとも、父は俺と同等の存在なのかい?もしかして実は、父より俺の方が優れているのではないかい?
開口一番何を言おうか考えあぐねているうちに、俺は漸く母を台所で発見した。
母は、床にうつ伏せで倒れていた。
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