追憶

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母は癌に冒されていた。 このことも、俺が母を病弱だと思う理由の一つだが…まぁ、癌に病弱もへったくれもない気がする。 ステージは3。ただ、ステージ4になるのも時間の問題だと言われた。 病床に伏せる母は、いつもの母より3割り増しで痩せて見えた。 「ごめんね、こんな大切な時期に…」 「お母さんが謝ることじゃないさ」 ありがとう…と静かに口にする母へ、俺は父のことを切り出すことはできなかった。 やつれた母を見て、また一つ思い出したのだ。 俺はそもそも、父を超えることではなく、母を喜ばせるために努力していたことを。ここまで俺を育ててくれた母に対して最も良いプレゼントは、父に追いつかないまでも近づくことなのだと再確認した。 それから俺はさらに一つ、大学のレベルを一つ上げた。受験に向け、遮二無二勉強をした。母のため、狂ったように「父」になろうとした。 結果として、大学受験には成功した。 その事を母に伝えた時、彼女がなんと言ったかは最早、言うまでもない。
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