追憶

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大学生活は充実した…というか、過密であった。 病に蝕まれる母の看病に加え、少しでも家計の足しにするべくバイト三昧の日々。ぐるぐると回る日常を過ごしていたら、いつのまにか4回生になっていた。 母の体調は悪化の一途を辿っていた。 そんな状態でもやはり母は俺が父に近づくことを願っていたし、俺もその願いに応えようとした。 「お母さん、◯◯に内定貰ったよ」 俺がそう告げると、母は涙した。 「あぁ、良かったね…あの企業なら将来も安泰よ…流石、お父さんの子だね…」 彼女はそう言い、俺の頬を優しく撫でた。 それから数日後だった。母が亡くなったのは。 母は最後まで「流石、私の子だね」とは言ってくれなかった。 それが、残念でならなかった。
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