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「次の方、どうぞ」
受付の女性の声が聞こえ、俺はソファを立った。平日の昼間、市役所にはあまり人影が見えない。
「どうされました?」
「あの……戸籍謄本を取得したくて」
俺は交付申請書を提出しながら言った。
内定が決まり、母が他界した。良くも悪くも、ひと段落ついたこの機会に、長年の疑問にも決着をつけようと、そう思ったのだ。
初めは出生届を確認しようとしたのだが、その為には法務局に足を運ばなくてはならず、更に法的な理由がないと閲覧することは難しいとのことで、諦めた。どちらにせよ、戸籍謄本を見たほうが話は早かった。
「本人確認証はありますか?」
俺は大学在学中に取得した運転免許証を職員に見せた。
「…少々お待ちください」
女性はそう言うと、くるりと背を向けて奥の扉を抜けていった。
ついに、父の正体を知ることができる。
戸籍謄本に書かれた父の名前が判明すれば、そこから改製原戸籍を入手して父の住所(といっても本籍地だが)を調べることもできる。
その気になればSNSで名前を探してもいい。母があれだけ崇拝する程の人間だ、名前をネットで検索すればどこかの会社の重役が出てくるかもしれない。
そんな事を考えながら待っていると、先程受付をしてくれた女性が戻ってきた。
「こちらが戸籍謄本になります」
渡された紙を受け取る。軽くその書面に目を通してみた。
「……え?」
父の氏名の欄は、空白だった。
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