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女に悟られぬ様、静かに、ゆっくりと女の後を追いかける。特に足音だけはたてないように注意した。斎藤の部屋は203号室。山内は細心の注意を払って2階へと続く階段を上がった。女の姿はそこにあった。山内は壁に隠れてその様子を見ている。女はドアに書かれた部屋の号数を確認する。そして・・・203号室のドアノブに手をかけたその時。
「香澄さん・・・。」
山内が女に小さな声で話しかける。このアパートでは部屋の前で大声を出せば、すぐに中の住人に聞こえるだろう。山内は極力香澄だけに声が届くように試みた。一瞬香澄の手がビクッと震えた。
「・・・・・・・・・。」
香澄は無言で山内を見ている。狼狽えた様子は無い。
「何故・・・?あなたが此処に・・・?」
引き続き声のボリュームに気を使う。
「・・・・・・・・・。」
香澄も引き続き無言で山内を見つめる。
「下に・・・降りましょう。」
山内がジェスチャーで下に降りる様に促す。
「・・・・・・・・・。」
香澄は山内の意図を理解したのか、無言で山内の居る場所へと歩き出す。
「外に出ましょう。」
目の前まで来た香澄に小さく囁く。香澄は大人しく山内に従う。
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