雨が降った

雨が降っている。

トタンの屋根に打ち付けられた雨はトトトト…と軽い音がする。

少女は雨宿りのために、誰も使っていないトタンの小さな小さな物置の、少し前に出っ張った屋根の下でしゃがんで、雨が止むのを待っていた。

足元には生えっぱなしの草が、それぞれ好きな方向に長く伸びている。草の名前は知らない。しかし普段、少女はそれを知ろうとも、興味を持つという事も無かった。

それでも少女はそれを手に取った。適当に生えている草の中から、一番長くて、一番固そうな草を掴み、引っ張った。

草はぶちぶちと音を鳴らし、少し根っこを付けたままで引っこ抜けた。

少女はそれを手で挟んでくるくると回した。草の先端が大きく回り、根っこは少し浮いた。

右回し、左回し、右回し、左回し。

少女は手元の草を見ていない。
雨はしばらく止まないだろう。重い雲がぎちぎちと空を埋め尽くしているのだから。

トタンの屋根に雨が当たる。トトトト…トトトト…時々、強くなる時がある。

少女は傘を持っていない。
その手にいつの間にか草は無くなっていた。
少女はスマートフォンを操作している。

草の名前が知りたくなったのだ。たまたま、時間があったから、たまたま少女の好奇心が膨らんだから、たまたま草に特徴があったから…なんの偶然か、草の名前に興味を持つことになった。