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「あ…」
僕が竜を避けはじめてから、何ヶ月経ったんだろう。
やっぱり同じ部屋では偶然でも会うことは避けられない。
僕が洗面所に行った時にちょうど竜がシャワーから出てきた所だった。
タオルを腰に巻いただけの、竜の体がここ数カ月でより男らしく成長しているのを目の当たりにして、僕の心臓は壊れそうなくらいに激しく脈打った。
これは嫉妬?
いつまで経っても少年のような体型から変わらない僕と、どんどん成長して遠くに行ってしまって僕をおいてけぼりにしてしまうような、竜に対する嫉妬なの?
僕はわけが分からず、その場から逃げ出した。
身体の奥から熱が発せられてるみたいな感じがする…。
竜と一緒にいなくなってから、色んな人が僕に近付いてきた。
僕は自分が可愛いことは知っていた。だけど、僕の中には何か人を引き付けるものがあるらしい。
それがいいものなのか、悪いものなのかはわからないけど、僕に近付いてきた人はみんな引き付けられる様に僕の身体に触る。
「お願い、触るだけでいいから…」
放課後に、科学準備室に呼び出されて行くと、教師が後ろ手にドアの鍵をかけて、僕につめよった。
それが何を意味するか、わかっていた。
僕の周りでももうとっくに経験を済ませてる子たちなんているし。
きっと竜は僕なんておいてけぼりにして、先に大人になっちゃうんだ。
おいていかれるくらいなら、僕から逃げ出せばいい。
「いいよ、気持ちよくさせてよ。でも僕は何もしないし、キスはすんなよ」
そいつは僕の身体を夢中で舐めた。
笑える。いつも生徒に偉そうにしている教師が僕に懇願するなんて。
僕の頭の中には、何故か竜の男らしくなった身体が浮かんだ。
「…あっ…」
「気持ちいい? かたくなってきてるよ」
「…うるせぇ、黙ってやれよ…」
竜のあの身体は昔と同じくらい滑らかな触り心地なんだろうか。
あの腕で、昔みたいに抱かれたら…、あの手が僕の身体に触れたら…。
「あ…ん、そこ…」
そんなとこ、竜が触れたら、僕はどうなっちゃうんだろう…。
僕の頭の中は真っ白になって、熱が吐き出されたのを感じた。
それを飲み下す教師の顔を見て、一気に冷めた。
「…ちょっ…まだ」
「うぜぇ、触るだけっつったろ」
僕は追い縋る教師を蹴り飛ばして、服を整えドアから出た。
部屋に戻ると、リビングで水を飲む竜にタイミング悪くばったり会ってしまった。
「…」
竜がちらっと僕を見ると、すぐに目をそらしてミネラルウォーターのペットボトルを冷蔵庫にしまい、部屋に戻った。
胸がちくちくする。
僕は勝手だ。
僕が自分から竜を避けてるくせに、竜にそっけなくされるとこんなに傷付くなんて。
竜はもう僕のことなんてなんとも思ってないんだ。
…痛いよ…。
それから僕は、その痛みや空虚感を癒そうと何人とも最初の教師と同じようなことをした。
でもキスもセックスも、することはなかった。
いつも頭の中にあるのは、竜のことばかり。
僕は竜を思って、欲情し、果てた。
その行為は竜を汚しているような気がして、僕はますます竜とまともに顔をあわせられなくなり、竜も僕をまともに見なくなった。
こんなことしている僕のことを知って、竜はきっと僕を嫌いになったんだ。
僕はなんて汚らわしい生き物…。
だけど、いくらそんな行為をくり返しても、僕が癒されることも満たされることもなかった。
それどころか、どんどんと自分が汚らわしく思えて嫌になり、自暴自棄に続けるだけだった。
…まともにご飯も最近咽を通らない。
僕は夜もあまり眠れず、咽の乾きを癒す為に真っ暗で冷たいキッチンへ行った。
冷たい。
竜が居ない世界はどこも冷たい。
竜の顔が見たい。
竜……。
真っ暗な部屋で涙を流す僕の肩に、突然温かい感触がした。
「…泣かないで」
僕は思わず目を見開いた。
「…やっ…」
竜の手が温かくて、僕は思わず後ずさった。
そんな温かい手で僕に触れないで。
こんな汚れた僕に。
「リンが嫌なら触れない、近付かないから…泣かないで」
嫌じゃないよ…竜。
触って欲しい、近くにいたい。
そう言いたかったけど、言葉の代わりに涙がぼろぼろとこぼれるだけだった。
「オレ、約束したから、リンが嫌なら近付かないけど、離れない」
「何、言ってるの、竜」
「ずっと一緒にいるって約束した」
いつのまに、僕って言わなくなったの?
いつのまにそんなに強くなったの?
僕をおいて…。
「何それ、ばかじゃない? 」
僕の口からは、心とは正反対の言葉がでた。
「ん」
「…っ、そこまでとは知らなかった」
「ばかだけど約束は守る」
「…ほんと、ばかだ」
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