きみとぼくとみんなのバカンス

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きみとぼくとみんなのバカンス

 携帯の着信音で目が覚めた。  …ああ、昔の夢、見てたんだ。  うとうとしていた僕は起き上がって携帯を見ると、ジュンからだった。  中等部に入ってから仲良くなったジュンは、幼馴染みの実に恋してるのが端から見ればバレバレなのに、ジュンも実も付き合わない。  ジュンたちの別荘が同じ島にあるので、僕たちは知り合ってから何度か一緒に旅行した。  電話は実が最近付き合いはじめて今回夏休みのバカンスに一緒に連れてきた恋人と別れたという内容だった。  僕は喋っててだんだんムカムカしはじめた。  実のことが好きなのに、彼氏と別れたことを僕に報告してくれるジュンに、実と付き合ってるくせに、僕にも隙あらばちょっかいかけてくるその恋人に。  ううん、ほんとはその二人にムカついてるんじゃなくて、ただ側にいてぼーっとしてるだけで、強引に僕を奪ってくれない竜にムカついてる。  わかってるけど、勝手だってことは。  僕が竜に嫉妬させたくて、「自由協定」という名の元に、誰とでも仲良くしていいっていうことにさせたんだし。  竜は相変わらず無口で無表情で、他の人が見れば何考えてるんだかわからない。  でもずっと一緒にいる僕には、竜の微かな目の表情で、読み取ることができる。  それでも…言葉にして欲しいことだってある。  僕が他の人と仲良くしても竜は何も言わない。  いい気がしないのはわかってる。でも離れるわけでもない。 「竜、僕ちょっとジュンと話してくる」 「ん」  次の日の朝、ベッドから起き上がって、隣で寝転がってる竜に告げて、僕はジュンの部屋に向かった。 「じゅんちゃん、ちょっといい?」 「ああ。どした?」  ジュンが部屋を気にして、出てきてドアを閉めたから、中に実がいるんだと思った。 「実大丈夫?」 「ああ。元気ねえよ。ずっとベッドにいるって言うし。たぶんヒロ先輩が出て行くとこ見たくないんじゃないかな」  そんなに、簡単に帰しちゃっていいの?  そいつが去って行くとこ、見たらいいのに。特に情けなく去って行くとこなんて見れば、未練なんて残らない。  すっぱりきっぱり忘れて、ジュンの所に行けばいいのに。 「どうしたんだ?」 「うん。やっぱり僕あいつ許せないの。ちょっと僕実と話してみる」  僕はジュンを押し退けて、ベッドルームに入った。 「リン? 」 「実、本当にそれでいいの? 」 「え? 」 「別れる時なんて、すっぱり未練も残らない別れかたした方がいいんだよ。実と付き合ってたから言わなかったけど、あいつほんとにやな奴だよ」 「…うん…」  実はそんな別れ方、望んでないのはわかる。  でも、いい加減実だってけじめつけてジュンと付き合えばいいのに。  実は優しいいい子だから、そんなことは考えないだろうけど、僕はしっかりあいつに仕返しして、利用させてもらうから。 「あのね、僕、ほんとにあいつにムカついてるんだ。だから酷い追い返し方してやろうと思って。二度と僕らに近付けないように」 「ええ!? 」 「でも実の好きだった人だから、実が嫌だっていうならできないし」 「…うん…でも今は…好きだったのかどうか、よくわからない」 「じゃあ、いっそどうでもいい存在にしてあげる」 「どうやって? 」  実が僕の提案に恐る恐る乗ってくる。 「僕が誘惑して、ぽいしちゃう」 「…でも、そんなことしたら竜怒らない? 」 「竜は怒らないよ」 「リン…」  実は僕がきっと、悲しそうな顔をしたから、心配そうに僕の髪に触れた。 「リンは竜のこと、本当に好きなんだね」 「…うん、くやしいけど。僕が逆の立場だったら気が狂っちゃうよ。竜が他の誰かが僕の前でいちゃついてたりなんてしたら、相手を殺しかねないね」 「はは…。ありがと、リン。でも、ほんとに、竜と喧嘩しない程度に、ね? 」 「わかってるよ」  でも本当はずっと僕なんかに竜みたいな人はもったいないって思ってる。  いつかいい人が現れて竜を奪っていってしまう前に、僕は竜が僕から離れてしまえばいいと思ってる。  実が微笑んだから、やっと安心して、僕は部屋を出た。 「じゃ、また後でね」 「うん。ありがとリン」 「ううん、実のそういうとこが好き。じゃあね」  ドアまで一緒に来た実をぎゅっと抱き締めて、僕はにっこり笑った。 「さ、クルージング行くよ!」  その後、あゆたちのクルーザーを見つけたのをきっかけに、僕は復讐を決行した。 「じゃあ先輩はここでさよならですぅ」  急に僕の態度が豹変したことに掴み掛かろうとした先輩を、竜はタイミングよく海へ蹴落とした。  僕らの間には言葉がなくてもいつでも息がぴったり。
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